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異端の白球使い  作者: R.D
第二期 引き継がれる異端

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選択の、その先へ

 私が放った、その始まりの一球。


 ラケットにボールが触れた、その瞬間。


 世界が、反転した。


 それまで、私を包んでいた、静かな宇宙の闇が、光と混ざり合い、そして渦を巻いていく。


 無数の星々が、流れ星となって、私たちの周りを駆け巡る。


 光と闇が、まだらに混じり合う、その異様な光景の中で、ネットの向こう側に立つ「影」の輪郭が、急速に、鮮明になっていった。


 のっぺりとした仮面が、剥がれ落ちる。


 そして、そこに現れたのは、


 私と、寸分違わぬ、もう一人の、私の姿だった。


 同じ、顔。


 同じ、体つき。


 同じ、ラケットを握る、指先の癖。


 まるで、鏡写しのように、彼女は、そこに立っていた。


 ただ一つだけ違うのは、その瞳。


 私の瞳には、決意の炎が灯っている。


 彼女の瞳には、全てを諦観した、氷の静寂が広がっている。


 私が放った、強烈な下回転の、ロングサーブ。


 彼女わたしはそれを、完璧なフォームで、ドライブを返球してきた。


 ラリーが始まる。


 だがそれは、卓球ではなかった。


 それは、私と私による「対話」そのものだった。


 私が、感情のままに、強打を叩きつければ


 彼女は、論理のままに、その威力を殺し、いなしてくる。


 卓球では、負けたくない。


 その原始的な、意地と意地が、火花を散らす。


 私たちは、互いに持てる、全ての手を尽くした。


 ラケットを翻し、ドライブに見せかけた、アンチでのアンチドライブ。


 デッドストップに見せかけた、鋭い、横回転のツッツキ。


 その全ての思考が、完全にシンクロし、そして互いが互いの予測の、上をいく。


 長い長い、ラリーの応酬。


 そしてついに、その瞬間が訪れた。


 彼女(わたし)が放った、厳しい一球。


 それに対し、私の意識が一瞬だけ、相手(わたし)とシンクロする。


 私の思考から、感情が消え去り、ただそこに、完璧な、氷の論理だけが、一瞬だけ乗り移ったかのよう。


 相手の打球の回転数、速度、コース。その全てのデータを、瞬時に分析し、そして、導き出した最適解。


 それは、彼女(わたし)が最も得意とするはずの、完全な、無回転のアンチドライブだった。


 その、冷徹な一撃が、彼女のコートを打ち抜く。


 しかし。


 彼女は、それを見て笑った、気がした。


 そしてその、氷の瞳が、初めて炎のように揺らめいた。


 彼女は、私のその、冷たい一撃に対し、信じられない一球を返してきたのだ。


 それは、論理ではない。


 それは、分析でもない。


 それは「負けたくない」というただ、その一つの想いだけが乗せられた、あまりにも人間的で、そして温かい、魂のドライブだった。


 そのボールが、私の胸に、突き刺さる。


 (…ああ、そっか)


 私はその時初めて、心の底から理解した。


 この、試合が。


 この、私と私との、対話が。


 どうしようもなく、


「楽しい」のだと。


 私と貴方(わたし)


 そのどちらもが、私。


 その、どちらもが必死で戦い、そして、生きようとしている。


 その事実が、どうしようもなく愛おしい。


 私の口元に、自然と笑みが浮かぶ。


 それは、私がずっと忘れていた、心の底からの、本当の笑顔だった。


 私たちのラリーは、まだ続く。


 光と闇が混じり合い、そして、一つのメロディーを奏でながら。


 勝敗など、もうどうでもよかった。


 ただこの瞬間が、永遠に続けばいいと、そう願っていた。

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