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異端の白球使い  作者: R.D
第二期 引き継がれる異端

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異質vs王道

 しおりさんが不在の、この体育館で。


 もう一つの、天才と天才の戦いが、今静かに、始まろうとしていた。


 私と桜さんは、コートを挟んで向き合う。


 部員たちが固唾をのんで、私たちを見守っている。


 私は、右手に握られたラケットを、じっと見つめた。


 しおりさんが死闘の末に辛勝した選手、青木桜。 その彼女と、今私は戦おうとしている。


 手にした、しおりさんの思いが乗ったラケットが、ずしりと重い。


 信頼、覚悟、そして無念。


 その全てが、この一本に宿っているかのようだ。


「お願いします」


 静かな挨拶と共に、試合が始まった。


 サーバーは、私から。


 私はボールを、高くトスした。


 そしてラケットを、振り抜くその瞬間。


 不意に、しおりさんから託されたラケットが、ふっと軽くなった気がした。


 まるで、彼女が、私の隣に立ち『一緒に戦う』と、語りかけてくるように。


(…しおりさん)


 私は、その温かい感覚を胸に、下回転のかかったロングサーブを放った。


 それは相手を、カットという、私の土俵で戦うための一手。


 桜さんは、そのサーブに対し、少しも動じない。


 彼女は、美しいフォームから、力強いドライブで、応戦してくる。


 ドライブと、カットの応酬が、始まった。


 桜さんが攻め、私が、カットで隙を探る。


 彼女のドライブは、砲弾のようだ。一球一球が、重く、そして鋭い。


 私はそれを、鉄壁の守備で受け止め、変化させて返す。


 ラリーが5本、6本と、続いていく。


 そして、その時が、来た。


 私の、バックサイド深くへと、突き刺さる、彼女の強烈なドライブ。


 私はそのボールに対し、ラケットを翻したりしない、いや、出来ない、あの戦いかたは、彼女の才能と、血の滲む努力の、結晶なのだから。


 そのまま私はバック面の、黒いアンチスピンラバーで、そのボールを返球する。


 しおりさんと共に考えた、あの、アンチでのカット。


「なっ…!?」


 桜さんの表情が、初めて明確に、驚愕に歪んだ。


 彼女の、完璧なはずだったドライブのリズムが、ほんのわずかに、乱れる。


 彼女は、その回転のない、ボールに、なんとか対応しようとするが、その返球の精度は、ほんの僅かに落ちていた。


 私は、すかさず一歩踏み込み、今度は、フォア面の裏ソフトで、その甘くなったボールを、カウンタードライブで、相手コートのオープンスペースへと、叩き込んだ!


 ボールは、閃光のように、彼女の横を、駆け抜けていく。


 未来の、得点となる。


 未来 1 - 0 桜


 体育館が、どよめきに、包まれる。


 私は静かに、息を吐き出した。


 そして、手の中のラケットを、強く握りしめる。


(見ていてください、しおりさん)


 あなたの、その想いと、共に。


 私は、戦う。


 この、場所を守り抜くために。

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