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異端の白球使い  作者: R.D
第二期 引き継がれる異端

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罪と贖罪

 新入部員たちの、活気のある、しかしどこか空虚な声が、体育館の高い天井に吸い込まれていく。


 私が部長として、この光を失いかけた場所を、守り抜くと決めてから、数日が過ぎた。


 だがその道は、あまりにも険しく、そして孤独だった。


 私は、体育館の重い扉を開け、そして、部室へと向かう。


 その卓球部の活動に、入る時だった。


 部室の前に立つ、その人影に、私は足を止めた。


「………」


 そこに立っていたのは、あの、青木れいかだった。


 私の全身の血が、一瞬で凍りつくような、感覚。


 私の心から、憎悪と怒りの、黒い色が沸き上がる。


 だが次の瞬間、私は驚いた。


 目の前に立つ、彼女の姿。


 それは、私が最後に見た、あの冷たい刃を手に、嘲笑を浮かべていた彼女の姿とは、似ても似つかないものだったからだ。


 憔悴しきった、その表情。


 隈のできた、その瞳。


 明らかに、やつれている。


 彼女は、私の存在に気づくと、びくりと、肩を震わせ、そして俯いた。


 その姿は、まるで罪人のようだった。


「…何か用?」


 私の声は、自分でも驚くほど冷たく、そして硬かった。


 許せない。


 この女だけは、絶対に。


「……あの」


 彼女の、か細い声が、震えている。


「…お姉ちゃんが。…青木桜が、今日ここへ来て、練習を、手伝ってくれると、言っています」


「…何?」


 あまりにも、予想外の言葉に、私の思考が追いつかない。


「…そして」と、彼女は続けた。


「…もし何か、手伝うことがあれば、言ってほしいと。…ボール拾いでも、何でも、しますから…」


 その、言葉。


 その、姿。


 それはまさしく、贖罪だった。


 彼女は、自らが犯した、罪の重さに気づき、そして、苦しんでいるのだ。


 だが。


 それでも私は、れいかを、赦すことはできない。


 あなたがしたことは、それくらいで、償えるようなものではないのだから。


 私の口から、冷たい拒絶の言葉が出かかった、その時だった。


 ふらりと、彼女の体が、揺れた。


 そのあまりにもか細く、そして、今にも倒れてしまいそうな、姿。


(…このままでは、倒れる)


 私の思考とは裏腹に、思わず心配になってしまう。


 その、憎しみを向けるべき相手の、あまりにもやつれた、その姿に。


 私は、心の中で、舌打ちを、一つした。


 そして彼女に、背を向けたまま言った。


「…そう。お姉さんには、よろしくお伝えください」


「あなたは、座っていて。倒れられては、迷惑なので」


 私はそれ以上何も言わずに、部室のドアを、開けた。


 私の心の中には、憎しみと、そして、ほんの少しの、憐れみという、相反する感情が、渦巻いていた。


 この物語は、どうやら、私の想像よりもずっと複雑で、そして、救いのないものなのかもしれない。

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