罪と贖罪
新入部員たちの、活気のある、しかしどこか空虚な声が、体育館の高い天井に吸い込まれていく。
私が部長として、この光を失いかけた場所を、守り抜くと決めてから、数日が過ぎた。
だがその道は、あまりにも険しく、そして孤独だった。
私は、体育館の重い扉を開け、そして、部室へと向かう。
その卓球部の活動に、入る時だった。
部室の前に立つ、その人影に、私は足を止めた。
「………」
そこに立っていたのは、あの、青木れいかだった。
私の全身の血が、一瞬で凍りつくような、感覚。
私の心から、憎悪と怒りの、黒い色が沸き上がる。
だが次の瞬間、私は驚いた。
目の前に立つ、彼女の姿。
それは、私が最後に見た、あの冷たい刃を手に、嘲笑を浮かべていた彼女の姿とは、似ても似つかないものだったからだ。
憔悴しきった、その表情。
隈のできた、その瞳。
明らかに、やつれている。
彼女は、私の存在に気づくと、びくりと、肩を震わせ、そして俯いた。
その姿は、まるで罪人のようだった。
「…何か用?」
私の声は、自分でも驚くほど冷たく、そして硬かった。
許せない。
この女だけは、絶対に。
「……あの」
彼女の、か細い声が、震えている。
「…お姉ちゃんが。…青木桜が、今日ここへ来て、練習を、手伝ってくれると、言っています」
「…何?」
あまりにも、予想外の言葉に、私の思考が追いつかない。
「…そして」と、彼女は続けた。
「…もし何か、手伝うことがあれば、言ってほしいと。…ボール拾いでも、何でも、しますから…」
その、言葉。
その、姿。
それはまさしく、贖罪だった。
彼女は、自らが犯した、罪の重さに気づき、そして、苦しんでいるのだ。
だが。
それでも私は、れいかを、赦すことはできない。
あなたがしたことは、それくらいで、償えるようなものではないのだから。
私の口から、冷たい拒絶の言葉が出かかった、その時だった。
ふらりと、彼女の体が、揺れた。
そのあまりにもか細く、そして、今にも倒れてしまいそうな、姿。
(…このままでは、倒れる)
私の思考とは裏腹に、思わず心配になってしまう。
その、憎しみを向けるべき相手の、あまりにもやつれた、その姿に。
私は、心の中で、舌打ちを、一つした。
そして彼女に、背を向けたまま言った。
「…そう。お姉さんには、よろしくお伝えください」
「あなたは、座っていて。倒れられては、迷惑なので」
私はそれ以上何も言わずに、部室のドアを、開けた。
私の心の中には、憎しみと、そして、ほんの少しの、憐れみという、相反する感情が、渦巻いていた。
この物語は、どうやら、私の想像よりもずっと複雑で、そして、救いのないものなのかもしれない。




