罪と罰と優しさと (2)
れいかはただ、ベッドの中で、声を殺して、泣き続けている。
その、あまりにも、痛々しい姿。
私は、それ以上何も言えずに、ただ静かに、彼女の部屋を、後にした。
自室のベッドに腰掛け、私は、先ほどの光景を、思い返していた。
れいかの、あの言葉。
『私のせいで、大事なものが壊れちゃった…。お姉ちゃんが好きだったあの場所も、めちゃくちゃにしちゃったかもしれない…』
何があったのか、私には、何も分からない。
だが、分かることが一つだけ、ある。
妹のれいかが、今、何か、とてつもなく大きな、罪悪感に苛まれている、ということ。
そして、その原因が、あの静寂さんのいた、卓球部と、何か関係がある、ということ。
(…第五中学、卓球部)
私の脳裏に、ブロック大会の準決勝で対峙した、あの少女の姿が、蘇る。
静寂しおり。
最初は冷たい、氷の人形のようだった、彼女。
県大会の決勝戦では、まるで、私を検体の様に観察し、一つ一つ、私の戦い方を暴き、解体していくその残酷な強さ、私は一度、その冷徹さに屈した。
エッジインでの敗北、あの時、エッジインがなくても、私は敗北していただろう。
だが、ブロック大会の準決勝の試合は、まるで、別人のように、楽しそうに、そして生き生きと、ボールを打ち返してきた。
あの姿は、今でも鮮明に、覚えている。
あんな楽しい卓球、見たことも、やったこともなかった。
楽しかった、もう一度戦いたいと、楽しみたいと、初めて思った相手。
(…あの、チームに、一体、何が…?)
私は立ち上がり、机に向かう。
そして、宿題を片付けながら、しかし、その思考は、ずっと妹のことに、向いていた。
れいかが、心配で仕方がない。
彼女は、昔からそうだ。
プライドが高くて、負けず嫌いで、そして、少しだけ不器用。
私が卓球で注目を浴びれば浴びるほど、彼女の心の中に、黒い影が落ちていくのを、私はずっと感じていた。
(…れいか。あなたは一体、何をしてしまったの…?)
(そして私は、姉として、それに、どう向き合えばいいの…?)
答えの出ない、問い。
だから私は決めたんだ。
明日、第五中学へ行こう、と。
そして、この目で確かめよう、と。
彼女が壊してしまったという「何か」
そして私が、これからすべきことを。
その決意を胸に、私はペンを、走らせる。
窓の外は、もう、すっかり暗くなっていた。
妹の部屋からは、もう泣き声は聞こえてこない。
ただ、その静寂が、逆に、私の胸を、締め付けるようだった。




