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異端の白球使い  作者: R.D
第二期 引き継がれる異端

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罪と罰と優しさと

 家に帰り、私は制服のまま、自分の部屋のベッドに、倒れ込むようにして休んでいた。


 もう、何も考えたくなかった。


 何もしたくなかった。


 コンコンと、控えめな、ノックの音。


 そして、お姉ちゃんが静かに、部屋へと入ってきた。


「れいか、大丈夫?保健室で休んでたって、聞いたけど…」


 その声には、私を心配する、優しい響きがあった。


 最近の私が、明らかにやつれていることに、彼女も気づいているのだろう。


「…うん。ちょっと貧血、かな。もう大丈夫だよ」


 私はそう言って、精一杯の笑顔を、作った。


 だが、その笑顔は、きっとひどく歪んでいたに、違いない。


 お姉ちゃんは、私のベッドの端に腰掛け、そして、私の髪を、優しく撫でた。


 その温かい、手の感触。


 それが、私の心の、最後の壁を、いとも簡単に壊してしまった。


 私の瞳から熱い液体が、止めどなく溢れ出してくる。


「…お姉ちゃん」


 私の声は、震えていた。


「私ね、私、ひどいことしちゃった…」


「どうしたの?れいか」


「私のせいで、大事なものが壊れちゃった…。お姉ちゃんが好きだった、あの場所も、めちゃくちゃにしちゃったかもしれない…」


 私は、主語を曖昧にしながら、しかし、確かに、自分の犯した罪の重さを、彼女に告白していた。


 その罪悪感が、私を押し潰しそうだった。


 お姉ちゃんは、何も言わずに、ただ黙って、私の話を聞いてくれていた。


 そして、私が一通り話し終えるのを待って、静かに、そして力強く、言ったのだ。


「…そう、そっか。」


 彼女は立ち上がり、そして、私の涙を、その指で、優しく、拭ってくれた。


「れいか。あなたが何をしたのか、私にはまだ分からない。でも、あなたが、そんなに苦しんでいるのなら、私にできることをするのが、私の役目だね」


 彼女の、その言葉に、私ははっと、顔を上げた。


「明日、第五中学の卓球部に行ってくる。 そして、部長の未来さんに、私が練習を見てあげる、って伝えておいて」


 その、あまりにも予想外の、そして、あまりにも優しい提案。


 その優しさと、そして、それに甘えることしかできない、自分のどうしようもなさに、私は再び絶望する。


(…違う。違うんだよ、お姉ちゃん。あなたが、行くべきなのは、卓球部じゃない。そして、私が欲しいのは、そんな優しさじゃ、ないんだ…)


 あの事件は誰にも、知られていない。


 だから、お姉ちゃんの、この行動が、ただ純粋な、善意から来ている、ということも分かっていた。


 だからこそ、辛いのだ。


 私は、何も答えられない。


 ただベッドの中で、声を殺して、泣き続けることしかできなかった。


 その涙の、本当の意味を知る者は、この世界に、私一人しかいなかった。

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