異端審問 (2)
三学期の始業式。
本当なら、他校の生徒である私が、ここにいることは許されない。
でも私は、どうしても見たかったのだ。
しおりが、全校生徒の前で表彰される、その晴れやかな姿を。
だから私は、朝早くから第五中学校に駆けつけ、そして、顧問の先生に、必死にお願いした。
「私にも、しおりの表彰式を、見せてください!」と。
先生は、最初困っていたけれど、私のその、あまりの必死さに根負けしたのだろう。しおりが、特殊な環境で育ってきていることもあり、校長先生に掛け合ってくれて、特別に許可をくれたのだ。
体育館の後ろの方で、私は先生と並んで、その瞬間を、見守っていた。
「――優勝、静寂しおり!」
名前が呼ばれ、しおりが壇上へと上がる。
その姿は、堂々としていて、そして誰よりも、輝いて見えた。
私の胸が、自分のことのように、誇らしさでいっぱいになる。
表彰式が終わり、私たちは、体育館の出口でしおりたちを待っていた。
先生と雑談していると、部長さんが、こちらへとやってきた。
彼は、私を見ると呆れ顔で言った。
「お前本当に来たのか。よく許可、降りたな」
「うん!先生にお願いしたんだ!」
「始業式、私は明後日だからねー」
私がそう言って、笑った、その時だった。
「――先生っ!部長さんっ!」
息を切らせて、こちらへ走ってくる人影。
未来さんだった。
彼女は、いつも冷静で落ち着いているのに、今、その顔は真っ青で、そして、見たこともないほど、必死の形相をしていた。
「未来!?どうしたんだ、そんなに慌てて…!」
「しおりさんが…!危ない…!三階、空き教室で…!」
その、つぎはぎのような話し方。全力で走って、伝えに来てくれたのだとすぐに、分かった。
その見たことのない、未来さんの表情に、私の心の中に、嫌な予感が走った。
次の瞬間には、私たちはもう、走り出していた。
部長、先生、未来さん、そして、私。全力で走り、三階の空き教室へと向かう。
しおりの名前を、叫びながら。
お願い、無事でいて。
お願い、お願い、お願い…!
そして、私たちは見てしまった。
教室の床に、倒れている、彼女の姿を。
首元からは、激しく出血し、その、白いブラウスを、真っ赤に染めている。
そして、その細い首には、誰かが力一杯絞めたような、手の跡が、くっきりとついていた。
彼女は、ぴくりとも動かない。
意識不明だった。
「「「――しおりっ!!!!!」」」
部長と先生と、私の絶叫が、静かな教室に、響き渡る。
未来さんは、声も出せずに、その場で崩れ落ちていた。
私の頭の中は、真っ白になった。
嘘だ。
こんなの、嘘だ。
やっと、会えたのに。
やっと、また、一緒に、笑えるように、なったのに。
なんで。
どうして。
私こ、新しく始まるはずだった物語は、こんなにも呆気なく、そして、残酷な形で、終わりを告げようとしていた。
私の太陽が、今、目の前で、消えかかっている。
その、あまりにも残酷な現実を前に、私はただ、立ち尽くすことしか、できなかった。