疲労困憊
私の頬を一筋、熱い何かが、伝っていく。
それは、私がずっと、忘れていた「嬉しい」という名前の、感情だった。
私の新しい物語は、今この光の中で、確かに始まろうとしていた。
表彰式が終わり、私たちは、興奮冷めやらぬ体育館を、後にした。
アドレナリンが切れた途端、私の体と、そして、隣を歩く部長の体に、凄まじい疲労感が、襲いかかってきた。
「…やべえ。足が、動かねえ…」
「…同感です。私の身体パラメータも、完全に、レッドゾーンを振り切っています…」
結局、私と部長は、ボロボロの状態で、あおと、未来さん、そして、あかねさんと先生に、両側から支えられるようにして、なんとかホテルに戻り、それぞれの部屋のベッドへと、倒れ込むようにして、深い深い眠りに、ついた。
一夜明けても、その疲れは、全く取れていなかった。
体中の筋肉が、悲鳴を上げている。
顧問の先生が心配して、私たちの様子を見に来てくれたが、そのあまりの消耗ぶりに、苦笑いを浮かべていた。
「はっはっは。まあそうなるだろうな。あれだけの、死闘を演じたんだ。無理もねえよ」
先生は、そう言って、私たちに告げた。
「結局、東京観光は無理そうだな。 今日はゆっくり、新幹線で帰るとするか」
あかねさんとあおは、少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔で頷いてくれた。
そうだ。
観光なんて、またいつでもできる。
今はただ、この勝利の余韻と、心地よい疲労感に、浸っていたい。
私たちはそうして、東京を後にし、それぞれの帰路へと、ついた。
そして、季節は、巡り。
短い、冬休みが、終わりを、告げ、三学期の、始業式の日。
三学期が始まる。