魔女の戴冠式
全ての試合が終わり、体育館は、先ほどまでの熱狂とは打って変わって、静かで厳かな雰囲気に、包まれていた。
閉会式、そして、表彰式が始まるのだ。
私と部長は、他の入賞者たちと共に、コートの中央へと整列する。
目の前には、大きな表彰台が設えられていた。
やがて、アナウンスが響き渡る。
「――これより、表彰式を執り行います」
まずは、男子シングルスの表彰から。
「準優勝、九州中学、市ノ瀬選手…」
そして。
「――優勝、第五中学校、部長 猛選手!」
その名が呼ばれた、瞬間。
観客席の仲間たちから、ひときわ大きな拍手と、歓声が上がった。
部長は、誇らしげに胸を張り、そして、表彰台の一番高い場所へと、登る。
その首には金色のメダルがかけられ、そして、大きな優勝トロフィーが、手渡された。
その姿は、まさしく「王様」そのものだった。
そして次に、女子シングルスの表彰。
「第三位、五月雨中学、小笠原 凛月選手…」
小笠原さんが少しだけ悔しそうに、しかし、清々しい顔で、表彰台に上がる。
彼女の視線が、私に向けられ、そして、小さく頷いた。
私もまた、彼女に頷き返す。
(…また、戦いましょう)
(ええ、望むところです)
言葉は、なくとも、私たちの、間には、確かに、そんな、対話が、交わされていた。
「準優勝、光星学園、緑山 光選手…」
そして。
「――優勝、第五中学校、静寂 栞選手!」
私の名前が、呼ばれる。
観客席から、再び大きな拍手と、歓声。
私は、ゆっくりと歩き出し、そして表彰台の、一番高い場所へと、登った。
そこから見える、景色。
それは、私が今まで見たことのない、景色だった。
私の首に、金色のメダルが、かけられる。
ずしりと、重い。
それは、私がこれまで積み上げてきた、全ての努力と、そして、仲間たちとの、絆の重さ。
そして、大きな優勝トロフィーが、私の手に、手渡された。
ひんやりとした、その感触。
私は、そのトロフィーを、高く高く、掲げた。
その瞬間、無数のカメラのフラッシュが、一斉に、たかれる。
私の思考は、そのあまりの情報量に、フリーズ寸前だった。
だが、私の心は、不思議と穏やかだった。
私は、観客席の仲間たちを見た。
涙でぐしゃぐしゃの顔で、私に手を振ってくれている、あお。
同じように、涙ぐみながらも、満面の笑みを浮かべる、あかねさん。
静かに、しかし、その瞳の奥に、確かな誇りの色を、浮かべている、未来さん。
そして、私と同じ、一番高い場所から、力強くガッツポーズを送ってくれる、部長。
(…ああ、そうか)
私が、本当に欲しかったものは、このトロフィーでも、メダルでもない。
ただ、この光景だったのだ。
この仲間たちと共に、笑い合える、この温かい瞬間、そのものだったのだ。
私の頬を、一筋、熱い何かが、伝っていく。
それは、私がずっと忘れていた「嬉しい」という名前の、感情だった。
私の、新しい物語は今、この光の中で、確かに始まろうとしていた。