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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
503/674

優勝者

「うぉぉぉりゃあああああああああっ!!」


 コートの中央で、部長が天に向かって、咆哮している。


 その、魂の叫びと、体育館を揺るがす大歓声。


 その全てが、彼の、そして、私たちの勝利を物語っていた。


 やがて、対戦相手の市ノ瀬選手と、固い握手を交わした部長が、こちらへと返ってきた。


 その顔は、汗と、そして喜びで、ぐしゃぐしゃだ。


 あおが「部長先輩ー!」と、泣きながら彼に、駆け寄っていく。


 未来さんも静かに、しかし、その瞳には、確かな称賛の色を浮かべて、拍手を送っている。


 みんなが彼を祝福する中、私は静かに、彼に近づき、そして言った。

 その声には、ほんの少しの皮肉と、そして、それ以上の敬意を込めて。


「…おめでとうございます、部長。デュースを演じて、観客を盛り上げるのは、相変わらず得意ですね」


「なっ…!ち、ちげえよ!あいつが…、」

 部長が、言い訳じみたことを、言う前に、私は、言葉を重ねて、続けた。


「ですが、あの死闘は、見ごたえがありました。いい試合だったんじゃないですか?」


 私がそう言って、少しだけ照れ臭く感じ、視線を逸らす。


 その素直な言葉に、部長は一瞬きょとんとしたが、すぐにニヤリと、悪戯っぽく笑った。

「はっ!お前もたまには、素直なこと言うじゃねえか!」

 そして彼は、その大きな手で、私の髪を、わしゃわしゃと撫でてきた。

 その、子供扱いな行動。

 だが、不思議と、嫌な気はしなかった。


「さてみんな、よくやった!」


 その時、顧問の佐藤先生が、パン!と、手を叩いた。

「この後の、予定だが…」

 私が先生の方に、視線を向けると、彼はにこやかに、頷いた。


「この後、全種目が終了次第、表彰式と閉会式が行われる。部長としおり、それぞれ表彰台に上がることになるからな。心して臨むように」

 先生の、その言葉に、あかねさんとあおが「わー!」と歓声を、上げる。


「表彰式ではまず、成績発表があって、名前を呼ばれたら、表彰台に登る。そこで、メダルと賞状、それから優勝トロフィーが授与されるはずだ。写真も撮られるだろうから、身だしなみは、ちゃんとしておけよ」


 表彰台。 メダル。 優勝トロフィー。


 その、一つ一つの言葉が、私の心の中で不思議な響きを持って、反響する。


 私が、ずっと求めていた、はずのもの。

 だが、今の私には、それよりももっと、価値のあるものが、ここにあるような気がした。


 私は、隣で笑い合っている、仲間たちの顔を見つめた。

 そうだ。


 これこそが、私が手に入れた、本当の宝物。


 この、温かい光こそが、私の全てだ。


 私は、その確かな温もりを胸に、静かに、そして確かに、微笑んでいた。

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