優勝者
「うぉぉぉりゃあああああああああっ!!」
コートの中央で、部長が天に向かって、咆哮している。
その、魂の叫びと、体育館を揺るがす大歓声。
その全てが、彼の、そして、私たちの勝利を物語っていた。
やがて、対戦相手の市ノ瀬選手と、固い握手を交わした部長が、こちらへと返ってきた。
その顔は、汗と、そして喜びで、ぐしゃぐしゃだ。
あおが「部長先輩ー!」と、泣きながら彼に、駆け寄っていく。
未来さんも静かに、しかし、その瞳には、確かな称賛の色を浮かべて、拍手を送っている。
みんなが彼を祝福する中、私は静かに、彼に近づき、そして言った。
その声には、ほんの少しの皮肉と、そして、それ以上の敬意を込めて。
「…おめでとうございます、部長。デュースを演じて、観客を盛り上げるのは、相変わらず得意ですね」
「なっ…!ち、ちげえよ!あいつが…、」
部長が、言い訳じみたことを、言う前に、私は、言葉を重ねて、続けた。
「ですが、あの死闘は、見ごたえがありました。いい試合だったんじゃないですか?」
私がそう言って、少しだけ照れ臭く感じ、視線を逸らす。
その素直な言葉に、部長は一瞬きょとんとしたが、すぐにニヤリと、悪戯っぽく笑った。
「はっ!お前もたまには、素直なこと言うじゃねえか!」
そして彼は、その大きな手で、私の髪を、わしゃわしゃと撫でてきた。
その、子供扱いな行動。
だが、不思議と、嫌な気はしなかった。
「さてみんな、よくやった!」
その時、顧問の佐藤先生が、パン!と、手を叩いた。
「この後の、予定だが…」
私が先生の方に、視線を向けると、彼はにこやかに、頷いた。
「この後、全種目が終了次第、表彰式と閉会式が行われる。部長としおり、それぞれ表彰台に上がることになるからな。心して臨むように」
先生の、その言葉に、あかねさんとあおが「わー!」と歓声を、上げる。
「表彰式ではまず、成績発表があって、名前を呼ばれたら、表彰台に登る。そこで、メダルと賞状、それから優勝トロフィーが授与されるはずだ。写真も撮られるだろうから、身だしなみは、ちゃんとしておけよ」
表彰台。 メダル。 優勝トロフィー。
その、一つ一つの言葉が、私の心の中で不思議な響きを持って、反響する。
私が、ずっと求めていた、はずのもの。
だが、今の私には、それよりももっと、価値のあるものが、ここにあるような気がした。
私は、隣で笑い合っている、仲間たちの顔を見つめた。
そうだ。
これこそが、私が手に入れた、本当の宝物。
この、温かい光こそが、私の全てだ。
私は、その確かな温もりを胸に、静かに、そして確かに、微笑んでいた。