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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
499/674

最後の一点

 セットカウント 静寂 2 - 0 緑山


 第三セット スコア:静寂 10 - 6 緑山


 マッチポイント、私。


 あと、一点。


 この一点を取れば、私の勝利が、そして、全国制覇が確定する。


 体育館の、全ての視線が、私に注がれているのが、肌で感じられた。


 だが、私の心は、どこまでも静かだった。


 私は一度、深呼吸をして、そして、サーブの構えに入る。


 ボールを天高くに上げ、そして、これまでの、どの試合よりも、大きく、優雅に、大袈裟なテイクバックの、モーションに入った。


 視覚的な情報を最大化し、相手の思考を、飽和させる。


(…あなたの思考は、今「下回転か、ナックルか」「ロングか、ショートか」という、情報の迷路にいる)


 そして、私はその迷路に、最後の一撃を与える。


 打つ瞬間に、アンチラバーへ切り替え、そして、超低空の、ナックルロングサーブを放つ!


 弾丸のような速さで、彼女のバックサイド深くへと、突き刺さる一球。


 緑山選手は、私のその、大きなモーションから、ハイトスの幻影から、強い下回転と読み、ボールを持ち上げるために、ドライブを放つ。


 だが、そのボールには、回転というものが存在しない。


 彼女のラケットは、そのボールを捉えきれず、ナックルのため、無情にも、ネットに引っ掛かってしまう。


 静寂 11 - 6 緑山


 その、瞬間。


 体育館が、割れんばかりの、歓声に包まれた。


 優勝が、決まったのだ。


 私は、ネット際に歩み寄り、そして、ネットの向こう側で呆然と立ち尽くす、緑山選手に、深く一礼をした。


 試合終了の挨拶をし、そして、観客席に向かって、一度だけ、軽くラケットを掲げる。


 仲間たちの、歓喜の声が聞こえる。


 あおの泣き顔と、笑顔が見える。


 私はその光景を、冷静に観測しながら、ベンチに戻る。


 そして、私の思考は、この勝利のデータを分析し、そして、結論を導き出していた。


(…優勝。目的は、達成された。だが…)


(正直、拍子抜けだったな)


 そうだ。


 この、決勝戦。


 その中身は、準決勝の、あの試合とは、比べ物にならない。


(あの、青木桜との、試合のほうが、よほど、気の抜けない、戦いだった)


 彼女との、あの死闘。


 私の全てを懸けて、ようやく掴み取った、あの、勝利。


 それに比べれば、この決勝戦は、ただの作業に過ぎなかった。


 私の胸の内にあるのは、勝利の高揚感では、ない。


 ただ、次なる、問い。


(青木桜よりも強い、相手は、どこにいるのだろうか)


(私のこの「異端」を、打ち破る、本当の強敵は、まだ、現れないのだろうか)


 私の、本当の戦いは、まだ終わらない。


 この、全国制覇すらも、私にとっては、ただの、通過点に、過ぎないのだから。

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