私の英雄(2)
私の愛した英雄が、今、この最高の舞台で、誰よりも楽しそうに輝いている。
その事実が、嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったのだ。
インターバルを挟み、第二セットが始まった。
コートに戻ってきた、しおりのその表情は第一セットよりも、さらに晴れやかで、そして楽しそうだった。
まるで、心の奥底から湧き上がる喜びを、隠しきれないといった様子。
第二セットも、その流れは、変わらなかった。
緑山選手は強い。彼女は、必死に食らいついてくる。
だが今の、しおりには、もう何も、通用しない。
(…ああ、そうか。私が、間違ってたんだ)
私はその光景を見て、全てを理解した。
私が忌み嫌った、あの、氷の仮面。
あれは、彼女を縛り付ける呪いなんかじゃ、なかった。
あれは、彼女が生きるために、必要だった盾であり、そして、彼女のその、常識外れの卓球を生み出す、源泉でもあったんだ。
そして、その氷の盾を溶かすことができるのは、暴力的な破壊なんかじゃ、ない。
ただひたすらに、温かい光。
仲間たちの、声援。
そして、卓球を楽しむ、という、純粋な想い。
彼女は今、ようやく、自分の中に隠れていた全てを、手に入れた。
氷の魔女の、冷徹な分析力と。
太陽の少女の、天真爛漫な発想力と、そして、楽しむ心。
その二つが、融合し、統合された今の彼女は、もはや誰にも、止められない。
第二セットも、しおりが圧倒的な力で、連取する。
スコアは、11-4。
そして、運命の第三セット。
緑山選手の、心は、もう折れかけている。
だが、ここまで勝ち上がってきた猛者だ、彼女は、心の内から闘志を引き出し、目の前で繰り広げられる、魔法のような、光景に、立ち向かう。
しおりは、踊っていた。
コートという舞台の上で、ただ一人、楽しそうに、舞い踊っている。
その姿は、あまりにも美しく、そして神々しい、とさえ思った。
最後の一球が、決まる。
セットカウント、3-0。
静寂しおり、全国大会、優勝。
その、瞬間。
体育館が、割れんばかりの、歓声に、包まれた。
私はもう涙で、前が見えなかった。
ただ立ち上がり、そして、声の限りに叫んでいた。
彼女の、名前を。
私のただ一人の、英雄の名前を。
「しおりぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!!!!」
私の声が、その歓声の中に、溶けていく。
でも、いい。
きっと、彼女には、届いているはずだから。
私のこの想いも、そして、感謝も全て。
ありがとう、しおり。
そして、本当の本当に、おめでとう。
私の、英雄。