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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
498/674

私の英雄(2)

 私の愛した英雄が、今、この最高の舞台で、誰よりも楽しそうに輝いている。


 その事実が、嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったのだ。


 インターバルを挟み、第二セットが始まった。


 コートに戻ってきた、しおりのその表情は第一セットよりも、さらに晴れやかで、そして楽しそうだった。


 まるで、心の奥底から湧き上がる喜びを、隠しきれないといった様子。


 第二セットも、その流れは、変わらなかった。


 緑山選手は強い。彼女は、必死に食らいついてくる。


 だが今の、しおりには、もう何も、通用しない。


(…ああ、そうか。私が、間違ってたんだ)


 私はその光景を見て、全てを理解した。


 私が忌み嫌った、あの、氷の仮面。


 あれは、彼女を縛り付ける呪いなんかじゃ、なかった。


 あれは、彼女が生きるために、必要だった盾であり、そして、彼女のその、常識外れの卓球を生み出す、源泉でもあったんだ。


 そして、その氷の盾を溶かすことができるのは、暴力的な破壊なんかじゃ、ない。


 ただひたすらに、温かい光。


 仲間たちの、声援。


 そして、卓球を楽しむ、という、純粋な想い。


 彼女は今、ようやく、自分の中に隠れていた全てを、手に入れた。


 氷の魔女の、冷徹な分析力と。


 太陽の少女の、天真爛漫な発想力と、そして、楽しむ心。


 その二つが、融合し、統合された今の彼女は、もはや誰にも、止められない。


 第二セットも、しおりが圧倒的な力で、連取する。


 スコアは、11-4。


 そして、運命の第三セット。


 緑山選手の、心は、もう折れかけている。


 だが、ここまで勝ち上がってきた猛者だ、彼女は、心の内から闘志を引き出し、目の前で繰り広げられる、魔法のような、光景に、立ち向かう。


 しおりは、踊っていた。


 コートという舞台の上で、ただ一人、楽しそうに、舞い踊っている。


 その姿は、あまりにも美しく、そして神々しい、とさえ思った。


 最後の一球が、決まる。


 セットカウント、3-0。


 静寂しおり、全国大会、優勝。


 その、瞬間。


 体育館が、割れんばかりの、歓声に、包まれた。


 私はもう涙で、前が見えなかった。


 ただ立ち上がり、そして、声の限りに叫んでいた。


 彼女の、名前を。


 私のただ一人の、英雄の名前を。


「しおりぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!!!!」


 私の声が、その歓声の中に、溶けていく。


 でも、いい。


 きっと、彼女には、届いているはずだから。


 私のこの想いも、そして、感謝も全て。


 ありがとう、しおり。


 そして、本当の本当に、おめでとう。


 私の、英雄。

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