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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
497/674

私の英雄

 静寂 2 - 0 緑山


 コートの中で、しおりが二本連続で、エースを決めた。


 そのあまりにも鮮やかな、そして、あまりにも美しい軌道。


 観客席がどよめき、そして静まり返る。


 観客席で誰かが「…えげつねえ」と、呟いていた。


(…すごい。すごいよ!しおり…!)


 私の心臓が、ドキドキと高鳴る。


 サーブ権が、相手の緑山選手へと移る。


 ここから、本当の戦いが、始まる。


 緑山選手が放ったのは、質の高い下回転の、サーブだった。


 しおりは、それに動じない。


 彼女は、そのサーブを、美しいフォームから放たれるドライブで返球し、真っ向から打ち合う。


 その光景を、見ていた私は、息をのんだ。


 そこにいたのは、「予測不能の魔女」では、なかった。


 私が知っている、昔の彼女。


 ただ純粋に、卓球を楽しみ、そしてどんな相手にも、真正面から挑んでいく、あの太陽のような、かつてのしおりそのものに、見えた。


 緑山選手は、強い。


 そのパワーとスピードは、これまでの、どの相手とも違う。


 不利な体躯のしおりは、何度も左右に振られ、そして、追い詰められる。


 だが、彼女は崩されない。


 その圧倒的な技量で、どんな、ボールにも食らいつき、そして、相手の予測を超えるコースへと、ボールを、打ち返す。


 その姿は、まるでコートの上を舞う、蝶のようだった。


 ラリーが続くたびに、緑山選手の顔から、余裕が消えていくのが、分かった。


 彼女のその、完璧なはずだった卓球が、しおりのその、あまりにも自由で、そして、楽しそうな卓球の前に、少しずつ崩壊していく。


 しおりは、緑山選手を追い詰めていく。


 スコアは9-3。しおりの、リード。


 そして、しおりにサーブ権が、移る。


 観客席の、誰もが、固唾をのんで、見守る中。


 しおりはあの、大きなテイクバックから、変幻自在の、サーブを放った。


 ナックル、下回転、ロング、ショート。


 その全てが、同じフォームから繰り出される。


 緑山選手はもう、そのサーブに対応できない。


 二本連続の、エース。


 静寂 11 - 3 緑山


 第一セットは、しおりの、完勝だった。


 私は立ち上がり、そして、力の限り、叫んでいた。


「しおりー!すごいよー!」と。


 涙で、視界が滲む。


 でもそれは、悲しみの涙じゃない。


 私の愛した英雄が、今、この最高の舞台で、誰よりも楽しそうに輝いている。


 その事実が、嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったのだ。

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