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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
496/674

決勝戦

 私たちは一度だけ、力強く頷き合い、そして、それぞれの戦場へと向かった。


 私の、最後の戦いが、今始まる。


 その胸の中には、仲間たちとの、温かい絆と、そして勝利への、絶対的な確信だけがあった。


 私と未来さんは、二人で女子シングルス決勝の、コートへと向かう。


 そこは、この巨大な東京体育館の、中でも、ひときわ強いスポットライトが当てられた、特別な場所。


 センターコートだ。


 コートに入ると、ネットの向こう側には、既に、対戦相手がベンチに入っていた。


 その、ゼッケンに書かれた名前は「緑山」

 そして、その学校名は「光星学園」


 未来さんによれば、全国の頂点に君臨する、超強豪校。


 緑山選手は静かに、こちらを見ている。


 その、探るような、鋭い視線が、私の全てを分析しようとしているのが、分かった。


 私もまた、緑山選手を観察し、思考を巡らせる。


(…強豪校の三年生。私よりも、ずっと背が高く、そして、鍛え抜かれたその体躯は、恵まれている。強そうだ)


 私たちが、ベンチに腰を下ろすと、隣で未来さんが、静かに口を開いた。


「…しおりさん。あの緑山選手。優勝候補として雑誌にも載っていました。 これまでの試合も、全てストレート勝ち。順当に、勝ち上がってきたようですね」


 その、未来さんの、冷静な分析。


 私はそれに対し、ラケットケースのジッパーを、ゆっくりと開けながら答えた。


 その声には、自分でも驚くほど、楽しそうな響きがあった。


「…そうですね。ですが、未来さん」


「番狂わせが、一番楽しいと思いませんか?」


 私のその、不敵な言葉。


 その瞳に宿る、強い闘志の光。


 それを見た未来さんは、一瞬だけ驚いたような、顔をしたが、すぐにいつもの、あの穏やかな笑みを浮かべて、頷いた。


「…ええ。全く、同感です」


 そうだ。


 相手が、強ければ強いほど。


 その試合が、困難であればあるほど。


 私の心は、燃え上がる。


 私の「異端」は、輝きを増す。


 私はラケットを強く、握りしめた。


 そして、コートの向こう側で、私を見つめる緑山選手を、真っ直ぐに見据えた。


 さあ、始めよう。


 この全国大会の、最後の、そして最高のショーを。


 勝つのは、この私だ。


 主審の、コールが響き渡る。


 私と緑山選手は、コートの中央へと歩み寄り、そして、深く一礼をした。


「「おねがいします」」


 静かな挨拶と共に、私の、最後の戦いが始まった。


 決勝戦、第一セット。


 サーブは、私から。


 私は、最初から全開でいく。


 この決勝という舞台で、小手先の探り合いなど、不要。


 私の持てる全ての技で、彼女のその、絶対的な自信を、最初の一球で、粉々にしてみせる。


 私は、ボールを高く、トスした。


 そして、これまでの、どの試合よりも大きく、そして、優雅に、大袈裟な、テイクバックのモーションに入る。


 それは、これから放たれるボールに、どれほどの回転が込められているのか、と、相手に想像させるための視覚的な、罠。


 緑山選手の、その鋭い瞳が、私の動きの全てを、捉えている。


 だが、その予測の、さらに上を行く。


 インパクトの、瞬間。


 私はラケットを、アンチラバーの面に合わせる。


 そして、ボールの真芯を捉え、超低空の、ナックルロングサーブを放った。


 弾丸のような速さで、彼女のバックサイド深くへと、突き刺さる一球。


 緑山選手は、私のその、大きなモーションから、下回転が、来ると見ていたのだろう。


 彼女は、そのボールを持ち上げるために、完璧に合わせて、ドライブでの返球を試みるが、回転のないボールが上がらず、そのボールは、台の下を、無情にも通っていった。


 静寂 1 - 0 緑山


 私のサーブ、二本目。


 私は再び、同じモーションに入る。


 緑山選手の、思考が、迷路に迷い込む。


(…また、ナックルか?いや、今度こそ、下回転か…?)


 私が放ったのは、赤い、裏ソフトの面で切った、強烈な、下回転のロングサーブ。


 緑山選手は、今度は、その逆を突かれた。


 彼女は、先ほどのナックルを、弾くように対処しようとしたのだ。


 だが、そのラケットの角度では、私のこの、強烈な下回転を、持ち上げることはできない。


 ボールは、彼女のラケットに当たり、そして、力なくネットにかかった。


 静寂 2 - 0 緑山


 私は静かに、そして冷徹に、次の一手を思考する。


 観客席から、仲間たちの、声援が、聞こえる。


 その温かいノイズが、私の背中を、強く強く、押してくれていた。

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