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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
495/674

決戦前夜

 それまで黙って、私たちのやり取りを見守っていた、顧問の佐藤先生が、小笠原さんの元へと、歩み寄った。


「小笠原さんだったかな。君のコーチや保護者の方は、どこにいるか分かるかな?もう大分時間もたった。心配していると思うぞ」


 その先生の言葉に、小笠原さんが、はっとした顔を、した。


「あ…!すみません、夢中になってしまって…。確か、あっちの控え場所に…」


 彼女がそう言って、辺りを見回すが、もうほとんどの選手は、引き上げた後で、彼女の保護者らしき姿は、見当たらない。


 そんな彼女の様子を見て、先生は、ふっと優しく笑った。


 そして、自分の財布から、一枚の名刺を取り出し、彼女に手渡した。


「一応、これを持っていきなさい。 もし困ったら、ここに電話してくれればいい。いいね?」


 そのあまりにも自然で、そして温かい優しさに触れた小笠原さんは、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに深々と、頭を下げた。


「…ありがとうございます。 先生」


 その光景を見て、私の胸の奥が、またぽかぽかと、温かくなっていく。


 そうだ。


 このチームは、そういうチームなのだ。


 やがて、体育館にアナウンスが響き渡る。


『――まもなく、女子シングルス及び、男子シングルス、決勝戦を開始します。選手は、指定のコートへお集まりください』


 その声に、私たちの間の空気が、一瞬で引き締まる。


 私は静かに立ち上がり、そして呟いた。


「…そろそろ、ですね」


 シングルス決勝の開始を知らせる合図が響き渡り、私たちは、最後の戦いに向けて、それぞれ歩き出す。


 部長とあかねさんは、男子決勝のコートへ。


 私と、未来さんは、女子決勝のコートへ。


 あおと小笠原さん、そして先生は、観客席から、私たちを見守ってくれるだろう。


 別れ際、私は、部長の目を真っ直ぐに、見て言った。


 その声には、一点の曇りもない。


「…負ける理由が、ありません。」


 そして、私は続けた。


「あなたも、私も。」


 その私の言葉に、部長はニヤリと、不敵に笑った。


「…ああ、そうだな。勝って、帰ってくるぜ!」


 私たちは、一度だけ力強く頷き合い、そして、それぞれの戦場へと、向かった。


 私の、最後の戦いが、今始まる。


 その、胸の中には、仲間たちとの、温かい絆と、そして、勝利への、絶対的な確信だけが、あった。



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