小笠原 凛月 (8)
その、あまりにも直接的な言葉に、その場の全員が、一瞬だけ固まり、そして、次の瞬間、大きな笑い声に包まれた。
私は少し、顔を赤くしながらも、笑っていた。
そうだ。
この、温かい空気。
私はこの、不思議で、そして最高に面白いチームの、ことを、もっともっと、知りたくなっていた。
「よーし、これで俺もしおりも、決勝進出だな!」
一通り、笑いが収まった後、部長さんが、パン!と手を叩いた。
「次が、とうとう決勝か。」
彼のその言葉に、体育館の空気が、再び引き締まる。
「よかったですね、部長。決勝でデュースを演じれば、会場も盛り上がりますよ」
静寂さんが、平坦な声で、そう言った。
その、言葉に、部長さんが、食ってかかる。
「おい、しおり!俺はいつだって、真面目にやってんだぞ!」
「ふふっ。まあまあ、部長先輩。しおりちゃんも、応援してるんですよ、きっと」
マネージャーのあかねさんが、笑顔を浮かべながら、仲裁する。
その、いつも通りのやり取り。
だが、私の目は、その隣の光景に、釘付けになっていた。
あの太陽のようは少女、日向さんが、ごく自然に、静寂さんの隣に座り、そして、その腕に、自分の腕を絡ませている。
その距離感は、もはや親友というよりも、恋人のように、ベタベタしていた。
「ねえしおり。決勝、絶対勝ってね?私、ずっと応援してるから」
「…はい。分かっています、あお」
静寂さんは、そのあまりにも親密な、スキンシップを、特に気にする様子もなく、受け入れている。
(…な、なんなんだ、このチームは…)
私の思考が、完全にフリーズする。
五月雨中学の、あの、規律と緊張感に満ちた雰囲気とは、全く違う。
あまりにも自由で、そして人間臭い。
そのチームのやり取りが、一通り落ち着いた中、静寂さんが、ふと、私の方に向き直った。
私と静寂さん、二人で、さっきの試合を振り返る。
「…小笠原さん」
「な、何かな、静寂さん」
「あなたの、卓球。非常に興味深いデータが取れました。特にあの第三セットでの、戦術の切り替え。あれは、私の予測を僅かに、上回っていた」
彼女のその、あまりにも分析的な言葉。
「…あなたこそ。あの、最後のカウンター。そして、アンチラバーで回転を残すあの技巧、あのプレー。あれは、もはや魔法だよ」
私が、そう言うと、彼女は、ほんの少しだけ、口元を緩ませた。
「…魔法では、ありません。あれは、私が仲間たちと共に掴み取った、新しい『解』です」
その、言葉。
その瞳に宿る、確かな光。
私は、その時確信した。
この少女は、まだ強くなる、と。
もっともっと、誰も手の届かない高みへと。
そして私は、そんな彼女と、もう一度戦ってみたい、と、心の底から、そう思った。