小笠原 凛月 (7)
私の、全国大会は、ここで終わった。
だが、私の新しい物語は、どうやら、ここから始まるようだった。
彼女のその、静かな頷き。
それが、私に、次なる行動への勇気を、与えてくれた。
私はまず、ベンチに戻り、そして、コーチに深く、頭を下げた。
「コーチ。ありがとうございました。…私の、力不足です」
「…いや。相手が一枚上手だった。それだけだ。…凛月、よく戦った」
コーチはそう言って、私の肩を、力強く叩いてくれた。
「あの、コーチ。少しだけ、第五中学の人たちと、話をしてきてもいいですか?どうしても、彼女について、もっと知りたいんです」
私の、その申し出に、コーチは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにふっと、笑った。
「…ああ、行ってこい。強くなるためのヒントは、コートの外にも転がっているもんだからな」
その許可を、貰ってから、私は一礼し、そして、彼女の元へと向かった。
静寂さんと幽基さん、そして、私の三人で、観客席へと向かう。
道中私は、意を決して、彼女に話しかけた。
「…静寂さん。第三セットの、あの戦術の切り替え。あれは、一体…?」
私の、その問いに、彼女は静かに答えてくれた。
その声は、試合中の、あの楽しそうな、弾んだ、ものではない。
いつもの、あの平坦で、そしてどこか冷たい、響き。
「…第三セットの、打ち合いは、あなたのその、戦意を、逆手に取った、心理的な罠です、必ずロングでの打ち合いになるのなら、着弾地点の予測はより簡単に、精度が高くなる」
その、あまりにも冷静な分析。
私は、その言葉に、改めて、彼女のその、底知れない思考の深さを、感じていた。
やがて私たちは、第五中学の、控え場所へとたどり着いた。
そこには顧問の先生と、そして、元気そうな第5中の生徒がいた。
二人は、私を見て驚いていた。
無理もない。
先ほどまで、死闘を繰り広げていた相手が今、ここに、いるのだから。
その、時だった。
「おー!しおり!お疲れさん!」
遅れて勝って戻ってきた部長さんと、マネージャーが、こちらへとやってきた。
彼は、私の姿を見つけると、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「なんだ小笠原。もうしおりと、仲良くなったのか?」
その彼の、あまりにも屈託のない言葉。
それに、どう答えていいか分からずに、私が戸惑っていると、隣で、静寂さんが、静かに言った。
「…ええ。彼女は、どうやら私と友達になりたいらしいので」
その、あまりにも直接的な言葉に、その場の全員が、一瞬だけ固まり、そして次の瞬間、大きな笑い声に、包まれた。
私は、少し顔を赤くしながらも、笑っていた。
そうだ。
この、温かい空気。
私は、この不思議で、そして、最高に面白いチームのことを、もっともっと、知りたくなっていた。