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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
492/674

小笠原 凛月 (6)

 インターバル終了を告げるブザーが、鳴り響く。


 私は立ち上がり、コートへと向かう。


 ただ勝利への、純粋な渇望だけが、炎のように燃え盛っていた。


 第三セット。


 サーバーは、私。


 コーチの指示通り、私は、ドライブでの打ち合いに持ち込むため、質の高いロングサーブを放った。


(乗ってこなかったらどう進める…?なんとかロングへの打ち合いに持ち込みたいが…、)


 だがコートの向こう側に立っていたのは、私の知っている「魔女」では、なかった。


 第一、第二セットの様子とは違い、彼女はどこか、生き生きとしていて、まるで別人のようだったのだ。


 その瞳には、冷徹な分析の光ではなく、純粋に、卓球を楽しむ、子供のような輝きが宿っている。


 彼女は、私のその、ロングサーブに対し待ってましたとばかりに、真っ向からドライブで応戦してきた。


 そこから始まったのは、壮絶なドライブの応酬。


 パワーでは、私の方が上のはずだ。


 なのに、彼女のボールは、不思議と重い。


 その一球一球に、これまでの、どのボールよりも、温かく、そして重い「想い」が、乗っているかのようだった。


 その打ち合いを、私は心地よいと感じていた。


 これだ。


 これこそが、私がしたかった卓球だ。


 ラリーが、10本を超えた、その時。


 私は、勝負に出た。


 渾身の力を込めて、フォアハンドスマッシュを、叩き込む。


 決めきったと、確信した、その一球。


 だが、彼女は倒れない。


 彼女のその、最後の一線を割らせない技術は、一級品だった。


 私の、強打に、彼女は、ロビングでひたすら繋ぎ、そして、私が体勢を崩した、その一瞬の隙を、見逃さなかった。


 彼女は飛び込むように、前に出て、そしてカウンターのスマッシュで、得点する。


 その、あまりにも鮮やかな一撃。


 私は、なす術もなかった。


 試合は、その後も彼女のペースで、進んだ。


 私が、攻めれば攻めるほど、彼女はその粘りと、そして、時折見せる、天才的なひらめきで、私を上回っていく。


 最後は11-9。私は、惜しくも、この第三セットを、落とし、そして、試合に敗れた。


 試合終了の、コールが、響く。


 私はラケットを置き、ネット際に歩み寄った。


 その気持ちは、不思議と清々しかった。


 完敗だ。


 だが、最高の試合だった。


「…ありがとうございました」


 私たちが挨拶し、握手すると、彼女はほんの少しだけ、照れくさそうに、微笑んだ。


 その笑顔は、私が試合中に見た、あの楽しそうな笑顔だった。


(…静寂しおり。あなたは一体、どんな、人間なんだろう)


(どうして、あんな卓球が、できるんだろう)


(もっと知りたい。あなたの、ことを)


 私は、気づけば、口を、開いていた。


「…あの。もしよかったら、あなたの話、もっと聞きたい。観客席に、ついていってもいいかな?」


 私のその、唐突な申し出に、彼女は一瞬、きょとんとした顔をしたが、すぐに静かに、頷いてくれた。


 その仕草が、私の心を、不思議と温かくした。


 私の、全国大会は、ここで、終わった。


 だが、私の新しい物語は、どうやら、ここから、始まるようだった。

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