表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
490/674

小笠原 凛月 (4)

 第二セット。セットカウント 小笠原 0 - 1 静寂


 静寂のサーブから、始まる。


 私は、自信に満ちていた。


 もう、あなたの魔法のタネは、見破ったと。


 彼女は、大袈裟なテイクバックから、下回転のショートサーブを、放ってきた。


 私は、そのサーブに対し、コーチの指示通り、ツッツキで低く、そして深く、返球する。


 ラリーが、始まる。


 そして、三球目。


 彼女は再び、あのモーションを見せてきた。


 アンチラバーを、私に見せつけるように構え、そして、氷の上を滑らせるかのように、なぞるような返球をしてくる。


(…来た!)


 私の、思考が加速する。


(コーチの言う通りだ。私が返したツッツキは、下回転。ならば、このボールも、下回転のはずだ!)


 私は、回転は下回転と見切り、そして、そのボールの落下点へと、深く踏み込んだ。


 そして、そのボールを持ち上げるために、そして、相手のスペースを撃ち抜く為に、思いっきりドライブを、放つ!


 だが。


 ボールがラケットに、触れた瞬間。


 私は、気づいてしまった。


 何か、致命的な見落としを、していたことに。


 ボールの、感触がおかしい。


 軽い。


 あまりにも軽すぎる。


(…まさか…!)


 そう。


 彼女は、あのモーションの中で、ボールを滑らせていなかったのだ。


 ただ普通に、アンチラバーで、ボールを弾いただけ。


 つまり、そのボールは、回転のかかっていない、ただのナックルだった


 私は、精一杯ボールを持ち上げようとするが、下回転を打つためのフォームで、ナックルボールを、コントロールできるはずもない。


 ボールは持ち上がらず、そして、私のラケットは、無情にも、ネットに強く当たった。


 小笠原 0 - 1 静寂


(…やられた…!)


 私は、彼女のそのモーションに、気を取られるあまり、アンチラバーという、ラバーそのものの、基本的な特性を、忘れてしまっていた。


 彼女は選択できるのだ。「回転をなぞる」か「回転を殺す」か、その二つを。


 そして私は、そのあまりにも単純な、二択の罠に、まんまとはまったのだ。


 私は、ネットの向こう側で、相変わらず無表情のまま、こちらを見ている静寂しおりを睨みつけた。


 彼女のその口元が、ほんのわずかに、笑みを浮かべたような、気がした。


 それは、私を嘲笑うかのような、冷たい冷たい、魔女の微笑みだった。


 見破らせて、二択のうちナックルという択を、私の中から消し、確実にナックルを通す、そんな作戦だったとしても驚かない。


 私の背筋に、悪寒が走る


 私の本当の死闘は、まだ終わらない。


 それどころか、さらに深い迷宮へと、足を踏み入れてしまったようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ