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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会

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全国大会・準決勝

 さあ、行こう。


 次の、舞台へ。


 私の、胸の中には、一点の曇りもない。


 準決勝の開始を告げるアナウンスが、響き渡る。


 私は、仲間たちに一度頷き、そして、未来さんと共に、準決勝の舞台に上がる。


 そこは、これまでのコートとは、明らかに違う空気が流れていた。


 より、多くの観客。


 より、強いスポットライト。


 そして、より、重い緊張感。


 コートの反対側には、既に対戦相手が、待っていた。


 そのゼッケンに書かれた名前は「小笠原」そして、その学校名は「五月雨さみだれ中学校」


 未来さんのデータによれば、去年の全国大会、ベスト8のやはり、強豪校だ。


 そして、彼女もまた三年生。


 私と未来さんが、ベンチに腰を下ろすと、彼女はこちらを、真っ直ぐに見つめてきた。


 小笠原選手と、目が合う。


 その瞳には隠そうともしない、剥き出しの闘志が、炎のように、燃え盛っていた。


 それはまるで「ようやく会えたな、静寂しおり」と、そう語りかけてくるような、強い強い、眼差し。


 その、あまりの、切り裂くような気迫に、私の隣に座る、未来さんもまた、息をのみ、そして、その闘志を、真正面から受け止めていた。


 彼女のその、深淵のような、瞳がほんのわずかに、細められる。


(…なるほど。面白い)


 私の思考ルーチンが、瞬時に、相手のデータを分析する。


(これまでの相手とは、違う。彼女は、私の異端な戦術を、恐れてはいない。むしろそれを、真っ向から、叩き潰そうとしている)


 そうだ。


 これこそが、全国の舞台。


 これこそが、準決勝に相応しい、相手。


 私の心の中で、闘志という名の炎が、静かに、そして確かに、燃え上がっていく。


「…未来さん」


「はい、しおりさん」


「…面白くなってきた。そうは思いませんか?」


 私のその言葉に、未来さんは静かに、そして、力強く頷いた。


 その瞳には、私と同じ色の炎が、宿っている。


 私たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。


 この強敵との死闘の先に、一体、何が待っているのか。


 私は、その答えを求めて、静かにラケットを、握りしめた。





 _______________________________





 全国大会準決勝。 その特別な舞台に、私は一人立っていた。 体育の熱気と喧騒。 だが、私の意識は、ただ一点だけへと収束していく。 これから現れる、私の対戦相手。 無名の公立中学、第五中学校。一年、静寂しおり


 これから現れる、私の対戦相手。


(…来たか)


 コートの入り口に、二つの人影が、現れた。


 一人は小柄で、そして、腰まである、長い黒髪を持つ少女。


 そして、もう一人は、その隣に寄り添うように立つ、どこかミステリアスな、雰囲気の少女。


 あれが「予測不能の魔女」と、そのサポーター。


 二人はゆっくりと、こちらへと歩いてくる。


 そして、ベンチへと腰を下ろした。


 私は、その二人を、じっと観察する。


 まず、目に入ったのは、サポーターの少女。


 確か名前は、幽基未来。


 彼女もまた、今年の県大会で、ベスト4まで、勝ち上がってきた、実力者らしい。


 彼女は静かに、私を見つめ返してくる。


 その、全てを見透かすような、深い深い瞳。


 まるで、私の心の奥底まで、探ってくるような、その視線。


 並の選手なら、その視線だけで、気圧されてしまうだろう。


(…なるほど、面白い。サポーターもまた、一筋縄ではいかない、か)


 そして私は、私の本当の相手へと、視線を移した。


 静寂しおり。


 彼女は、ただ静かに、ラケットケースを見つめている。


 その、横顔には何の感情も、浮かんでいない。


 喜びも、緊張も、そして、私に対する警戒心すらも。


 なにも語らない、その瞳。


 だが、その静寂の奥に隠された、冷たく、そして鋭い刃のような光を、私は確かに、感じていた。


(…これが、「予測不能の魔女」)


 私は、武者震いを感じていた。


 そうだ。


 これこそが、私が求めていた、相手。


 これほどのプレッシャーと、そして、底知れない、不気味さを放つ、この選手と戦える。


 その喜びに、私の全身の細胞が、歓喜の声を上げていた。


 やがて、彼女がふと、顔を上げる。


 そして、私たちの視線が、交錯した。


 その瞬間。


 私は確信した。


 この試合は、ただの卓球の試合では、ないと。


 これは、魂と魂が、切り裂き合う、本当の死闘なのだ、と。


 私は、不敵に笑った。


 面白い。


 どこまでも、やってやろうじゃないか。


 私の全てを懸けて、お前を打ち破る。


 その強い決意を胸に、私は静かに立ち上がった。

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