表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
485/674

つかの間の休息(2)

 その、あまりにも自然なスキンシップ。


 私の、胸の奥がまたぽかぽかと、温かくなっていくのを、感じていた。


 私たちの戦いは、まだ続く。


 だが、この温かい時間がある限り、私たちはきっと、どこまでも強くなれる。


 私は、そう確信していた。


 シングルス準決勝が始まるまで、私たちは、観客席で、それぞれの戦いを、振り返っていた。


 最初に口火を、切ったのは私だった。


「…竹村選手ですが」


 私は、先ほどの試合のデータを、頭の中で再構築しながら言った。


「第一セットでの、台上の捌き合いへの固執。そして、最終セットでの、ロングとショートを組み合わせた揺さぶり。どちらも理にかなった戦術でした。ですが、どちらも付け焼き刃。私の前では、意味をなさない」


「うんうん!しおりの敵じゃ、なかったよね!」


 葵が私の腕に、さらに強く絡みつきながら、言う。


 だが未来さんは、静かに首を、横に振った。


「…いいえ。彼女は間違いなく天才です。あの短時間で、しおりさんの卓球を分析し、そして、有効な戦術を組み立て実行する。並の選手にできることでは、ありません」


「…ええ。私も、そう思います」と、私は頷いた。「だからこそ、もう一度戦ってみたい。彼女が、その戦術を、完成させた時に」


 その私の、言葉。


 それは、かつての私には、なかった感情。


 好敵手との再戦を望む、という、純粋なアスリートとしての、想い。


「…それに、比べて」


 私は、今度は部長の方へと、視線を向けた。


「あなたの相手、神宮寺選手。彼は、竹村選手とはまた別のタイプの、天才でしたね」


 その言葉に、部長が苦虫を噛み潰したような、顔で、唸った。


「…ああ。思い出したくもねえ。あいつの卓球は異常だ。まるで、心を持たない機械と戦っているようだった。俺の全てを見透かされ、そして、じわじわと解剖されていく、あの感覚…。正直、心が折れかけた」


「でも、そこから、大逆転したんじゃん!すごかったよ、部長!」


 あおが、自分のことのように、嬉しそうに言う。


「…ああ。あれは、しおりのおかげだ」


 部長が、真っ直ぐに、私を見た。


「お前が前に言ってた『泥臭い、粘り』あの言葉がなかったら、俺は今頃、ここでこうして、笑っていられなかっただろうな」


 その彼の、素直な言葉。


 私は、少しだけ照れくさくて、そっぽを向いて答えた。


「…別に。私は事実を述べたまでです。あなたのその、諦めの悪さは、時として、私の予測すら凌駕する。それだけのことです」


「はっはっは!素直じゃねえな、お前は!」


 部長が、豪快に笑う。


 その笑い声に、仲間たちも、つられて笑う。


 その温かい空気の中で、私は一人、思考を巡らせていた。


(…神宮寺慧)


(彼の卓球は、確かに、かつての私に似ている。だが、決定的に、違うものが、ある)


(それは、仲間という変数の有無。そして、何よりも…)


「…リスクを冒してでも、なにを失ってでも、相手を叩き潰す、という覚悟の有無、ですね」


 私のその呟きに、未来さんが、静かに頷いた。


 そうだ。


 彼には、それがなかった。


 だから、彼は負けたのだ。


 そして、今の私には、それがある。


 この仲間たちが、いるから。


 この、温かい場所が、あるから。


 私は、どんなリスクも、恐れない。


 私は、失うことを、恐れない


 準決勝の開始を告げる、アナウンスが響き渡る。


 私は、立ち上がった。


 その胸の中には、一点の曇りもない。


 ただ、この仲間たちと共に、勝利を掴む、という、確かな意志だけが、そこにはあった。


 さあ、行こう。


 次の、舞台へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ