つかの間の休息
拍手で迎えられる部長は、満面の笑みで、私たちの元へとやってきた。
「おう見てたかお前ら!俺の、大逆転劇をよ!」
「見ていませんでしたが、スコアだけは観測しました。部長、詰めを誤ったか、あるいは油断しましたね」
「なっ…!?」
「私の予測なら、相手に与える点数は、5点以下のはずなんですが。15-13とは、随分と遊ばれたようですね」
私のその痛烈な皮肉に、部長がぐっと、言葉を詰まらせる。
「ち、ちげえよ!あいつ、ラストセットは、捨て身の攻撃に出てきたんだよ!」
彼はそう、言い訳がましく叫んだ。
その時だった。
それまで黙っていた、未来さんが、静かに口を開いた。
「…部長さん。あなたの、おっしゃる通りです」
彼女は、部長をかばうつもりで、私に言ったのだ。
「あの神宮寺選手の、最後の猛攻。私の計算でも、あれは予測不能な変数でした。あの状況下で7点は、取られてしまっても仕方ないと思います」
その、未来さんの、言葉。
彼女に、悪気は、一切ない。
だが、その言葉は「13点も、取られているあなたは、まだまだですね」という、庇いながら、部長への痛烈な皮肉になっていたことに、彼女自身は無意識だった。
「「「………ぶっ」」」
先生とあおとあかねさんの三人が、同時に吹き出した。
「な、なんだよ、お前ら!」
「ふふっ…!ご、ごめん、部長先輩…!」
「あははは!部長、どんまい!」
ひとしきり、笑った後、ポカーンとしている未来さんを私が観察し、あおの頭を、部長がわしわしと撫でていた。
「まあ、勝ったし、今は喜ぼうよ!」
「そうだよ部長!勝てばいいんだよー!」
あかねさんとあおがそう、言って、部長の肩を叩く。
私は、そんな笑い合う仲間たちを見て、小さく笑みを浮かべた。
「ほら、お前ら、喉乾いただろ」
その時、先生が、コンビニの袋から、全員にそれぞれ好きそうなジュースを、手渡してくれた。
私がココアを受け取ると、隣に座っていたあおが、するりと私の膝の上に、移動した。
「わ、先生!さすが、私の先生! 私がいちごミルク好きなの、分かってるー!」
第五中学の制服を着ている葵が、そう言って、嬉しそうにストローを咥える、彼女は、第5中学校の生徒という物を楽しんでいるようだった。
そして彼女は、私の腕に、自分の腕を纏わせ、そして、その、いちごミルクを、私に飲ませようとしてくる。
「あ、あお…。自分で飲めるから、あとおも…」
「いいから、いいから!ね?」
その、あまりにも自然なスキンシップ。
私の、胸の奥がまた、ぽかぽかと温かくなっていくのを、感じていた。
私たちの戦いは、まだ続く。
だが、この温かい時間がある限り、私たちはきっと、どこまでも強くなれる。
私は、そう確信していた。