終わる二回戦
その光景に、私の口元が、ほんのわずかに緩んだ。
この不器用で、そして、誰よりも優しい大人といる時間は、決して悪いものでは、なかった。
私は、彼からいくつかの軽いお菓子が入ったビニール袋を受け取った。
「…先生。そろそろ部長が勝つ頃でしょうから、戻りましょう」
「お、おう。わかったぜ」
私がそう言うと、先生は、大量の飲み物などが入った、重い袋を両手に持ち、そしてそれを運んでいく。その姿は、少しだけ滑稽で、そして、どこまでも優しかった。
体育館へと戻る道すがら、先生は嬉しそうに、自分の家族の話をしてくれた。
奥さんの手料理が、いかに美味しいか。
息子が最近、サッカーを始めたこと。
娘が俺に似て、腕白で大変だ、ということ。
その一つ一つのエピソードは、私の知らない世界の話だった。
だが、その彼の話を聞いていると、私の胸の奥が、またぽかぽかと、温かくなっていくのを感じていた。
観客席に戻ると、ちょうどAコートから、ひときわ大きな歓声が、上がった。
部長が、最後の一点を決めたところだった。
スコアボードには「15-13」という、数字が表示されている。
(…また、デュースか。詰めが、甘かったんだろうな)
私はそう想像しながら、未来さんとあおが待つ場所へと、向かった。
あおたちが、私たちに気づき、手を振っている。
「しおりー!先生ー!こっちこっち!」
私たちは、彼女たちと合流し、観客席に腰を下ろす。
コートの中では、部長が天に向かって、雄叫びを上げていた。
その彼の元へと、対戦相手が歩み寄り、そして、固い握手を交わしている。
良い、試合だったのだろう。
やがて部長とあかねさんが、こちらへと、戻ってくる。
その表情は安堵と、そして、勝利の喜びで満ちあふれていた。
私たちは、そんな二人を、拍手で迎えた。
私たちの、全国大会、二回戦は、こうして二人とも、勝利という最高の形で、優勝への道を繋ぐのだった