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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
482/674

異端者と罪悪感

 まさかあそこまで強引とは。都会の警官は恐ろしい。


 私は、そんなことを考えながら、コンビニの中へと、入った。


 先生は、何も言わずに買い物かごを手に取り、私の後に続く。


 私は、そのかごに容赦なく、スポーツドリンクや、栄養補助のゼリー飲料を入れていく。


 部長もあかねさんも、そして、あおも未来さんも、みんな、疲れているはずだ。


 その時、私の思考に一つの、罪悪感が浮かび上がった。


 そして、論理的ではない。ただの質問をしてしまう。


「…先生」


「ん?どうした静寂」


「先生は、結婚しているのですか?」


 私の、そのあまりにも唐突で、そして、プライベートな質問に、先生は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに楽しそうに笑った。


「はっはっは。してるしてる。可愛い嫁さんと、腕白な息子と娘、二人いるぞ」


「そうですか」


 私は、それだけを答え、そして再び、商品を選び始める。


 先生は、そんな私の様子を、不思議そうに見ていた。


「…どうしたんだ、急に。それがどうかしたのか?」


「…いえ。別に」


 私は、答える。


 だが、本当は違う。


 私は少しだけ、さっきの揉め事に、後ろめたさを感じていたのだ。


 もし本当に、先生が警察署に連れて行かれていたら。


 彼の可愛い奥さんと、腕白な息子さんたちを、悲しませることに、なっていたのかもしれない。


 そう思うと、私の胸の奥が、またちくりと、痛んだ。


 先生は、そんな私の心の揺らぎを、見透かしたかのように、優しく笑った。


「ははあ。さてはお前、さっきのこと、気にしてるな?」


「…別に、気にしていません」


「嘘つけ。顔に、書いてあるぞ」


 彼はそう言って、私の頭を、わしわしと撫でた。


「大丈夫だよ。連れてかれたら、終わりだったけどな! はっはっは!」


 その彼の、豪快な笑い声。


 それが私の心の中の、小さな棘を、そっと抜いてくれた、ような気がした。


 無意識に行っていた、私の話を反らす、という試みは、失敗したようだ。


 私は、観念して、小さな声で呟いた。


「………ごめんなさい」


「警察官が、あんな強引なものだとは、知らなくて…」


「おう気にするな。うちの県だと、みんな知り合いみてえなもんだからな。 あんなことは、まずねえよ」


 先生は、そう言って、笑った。


「でもな静寂。ここは東京だ。 俺たちが知らないルールが、たくさんある。だから注意するんだぞ。 お前みたいな奴は、すぐに目をつけられるからな」


 その彼の言葉は、優しく、そして温かかった。


「…はい」


 私は、静かに頷いた。


 その時、私は気づいた。


 先生の、その買い物かごが、もうずっしりと、重そうになっていることに。


 どうやら私は、無意識のうちに、たくさんの商品を、入れてしまっていたらしい。


「…先生。重いですか?」


「…いや大丈夫だ。これくらい、どうってこと、ねえよ」


 そう言って強がる、彼の腕が、ぷるぷると震えているのを、私は見逃さなかった。


 その光景に、私の口元が、ほんのわずかに緩んだ。


 この不器用で、そして、誰よりも優しい大人といる時間は、決して悪いものではなかった。

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