異端者と職務質問
私がただ黙って、煌々と輝く、二つのコンビニの光を見つめていた、その時だった。
「――こんにちは。少し、よろしいですか?」
不意に背後から、低い声がした。
振り返るとそこには、制服を着た、警察官らしき人が、二人立っていた。
その視線は明らかに、私たちへと向けられている。
「君たち、ここで何をしているのかな?えーっと、君は中学生くらいかな?こちらの男性は、保護者の方?」
警察官の一人が、私と先生を、交互に見ながら、そう言った。
その瞳には、明確な疑いの色が、浮かんでいる。
(…なるほど。未成年と30才ぐらい、というペアに対する職務質問か。合理的判断だ)
先生が「ああ、いえ、これは、その…」と慌てて何かを、説明しようとしている。
だが、その時の私は、そんなことには全く興味がなかった。
(…寒い。そして、糖分が不足している。思考が、甘いものが飲みたいと、要求している)
私は、先生と警察官の、そのやり取りには目もくれず、くるりと踵を返し、そしてコンビニの中へと、向かった。
「お、おい!静寂!?」
背後で、先生の、慌てた声が聞こえる。
私は、自動ドアをくぐり、そして、一直線に、ドリンクコーナーへと向かう。
そして、一番温かそうなココアを手に取り、レジへと向かった。
会計を済ませ、そして、その温かいココアを一口、喉に、流し込む。
じんわりと、体に温かさが、戻ってくる。
(…うん。これで思考も、クリアになった)
私が満足して、コンビニから戻ると、そこには信じられない光景が、広がっていた。
「だから違うんだって!俺は、あの子の学校の先生で!」
「はいはい、そういうのは警察署でゆっくり、聞くからねー」
「おいこら!勝手に触るな!」
先生が、二人の警察官に、羽交い締めにされ、パトカーへと連行されそうになっている。
私が逃げたと、警官が勘違いして、修羅場になっていたのだ。
(…なるほど。これが都会の警官、なんて手慣れて無駄がないんだ、恐らく日常茶飯事なのだろう、…私が撒いた種の様だし、…私が介入すべきか)
私はゆっくりと、その輪の中へと、歩み寄った。
「あの」
私のその、静かな声に、三人が一斉に、こちらを見る。
「何だ君!戻ってきたのか!さあ君も、一緒に署まで、来てもらおうか!」
「先生。少しよろしいですか」
私は、警察官の言葉を無視し、先生に話しかける。
「え?あ、ああ…」
「あなたの名刺をお借りします。それと、私の学生証です」
私は、自分のカバンから、生徒手帳を取り出し、そして、先生から名刺を受け取った。
そして、その二つを、警察官に提示する。
「…私は、第五中学校の静寂しおり。そしてこちらは、その卓球部の顧問の、先生です。何か問題でも?」
私のその、あまりにも冷静で、そして堂々とした、態度。
そして提示された、二つの身分証明書。
それを見て、警察官たちは、顔を見合わせ、そして、バツが悪そうに、頭を掻いた。
「あ、いや、これは、その…。ご、ご協力、どうも、ありがとうございました…」
彼らは、そう言って、そそくさと、その場を立ち去っていった。
後に残されたのは、私と、そして未だに、状況が飲み込めていない、先生だけだった。
「…先生。コンビニに入りましょう。部長も勝ち上がりますから、ゼリー飲料とスポーツドリンクとあとは…」
私が、そう言いながら歩き出すと、彼はようやく、我に返ったように、慌てて、私の後を、ついてきた。
まさかあそこまで強引とは、都会の警官は恐ろしい