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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
479/674

異端の卓球哲学

(…俺たちの大逆転劇は、まだ始まったばかりだ)


(このまま、一気にまくってやる)


 コートの中で、部長が天に向かって、咆哮している。


 その全身から、闘志という名の炎が、燃え盛っているのが見て取れた。


 観客席のあおも、未来さんも、その光景に、固唾をのんで見入っている。


 だが私には、この試合の結末が、もう見えていた。


(…もう、この試合は、終わりか)


 私は、静かに立ち上がった。


 そして、隣に座る、顧問の先生に、声をかける。


「先生。飲み物が、足りなくなったので、買いに行きます」


「お、おう。そうか。だが…」


「…大丈夫です。すぐに戻りますので」


 私はそう言って、観客席を後にし、外のコンビニへと、向かおうとする。


「お、おい!静寂!待て!」


 先生が慌てて、私の後を追いかけてくる。


「ここは東京だぞ!一人で行って、迷子にでもなったらどうする!」


 先生は、未来さんに「すまん!少しこいつに、ついていく!」と声をかけ、そして、私の隣に並んだ。


 その表情には、私への、心配の色が浮かんでいる。


「部長の試合は、見なくていいのか?」


 先生が、そう問いかける。


 私は歩きながら、平坦な声で、答えた。


「…もう見る必要はありません。結果は、見えていますから」


「何?」


 私は一度立ち止まり、そして、先生の目を、真っ直ぐに見て、言った。


「あの神宮寺選手には、攻撃手段がない、もしくは攻撃する気が見えません。恐らく彼の卓球は、相手のミスを誘って勝つというスタイル。自らリスクを犯さず、ひたすらに自爆を待ち、得点を狙う選手なのでしょう」


「その戦い方を、否定はしませんが、今の、粘りに入った部長には、その戦術は通用しない。本人は気づいていないかもしれませんが、部長の粘りの技術は尋常じゃありません。甘いボールを見定める目も養われています、部長を打ち破るには、神宮寺選手自身がリスクを犯し、より厳しく意表を突くか、攻勢に転じるかしないと勝てないのです」


 私はそこで、一度言葉を切った。


 そして、私の卓球哲学、人生、その根幹をなす言葉を、続けた。


 その声は静かだが、しかし、絶対的な確信に満ちていた。


「先生。勝つ、というのは、リスクを取る、ということなんです。」


 その言葉に、先生は息をのんだ。


 そうだ。


 リスクを恐れる者に、勝利の女神は微笑まない。


 そして、神宮寺選手には、そのリスクを冒す勇気が、足りていない。


 だから、この試合の結末は、もう決まっているのだ。


 私は、再び歩き始めた。

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