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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
478/674

灯された炎(3)

「みとけよ。俺の、大逆転劇をな」


 その言葉には、一点の迷いもなかった。


 俺の体中には、仲間たちの想いという、最強のエネルギーが満ちあふれていたのだから。


 タイムアウトが明ける。


 俺は、コートへと戻る。


 ネットの向こう側では、神宮寺が相変わらず、涼しい顔で、俺を見ている。


 だが、今の俺には、もう、神宮寺の、そのポーカーフェイスの奥にある、僅かな焦りが、見えている。


 スコアは、8-8。


 俺はもう、派手なパワープレーは、狙わない。


 俺が選択したのは、ひたすらに「粘り」そして「負けない」戦いだった。


 俺は回転とコースを重視した、いやらしいサーブで、相手を揺さぶる。


 神宮寺はそれを、的確に返球してくる。


 ラリーが始まる。


 俺はもう、無理に決めに行かない。


 ただひたすらに、返す。


 深く、そして確実に。


 相手のコートに、ボールを返し続ける。


(そうだ。お前には、決めきる力が、ない)


(お前のその精密な卓球は、相手のミスを、誘うことには長けている。だが、自らリスクを冒して、強打で決めきるという、選択肢を持っていない)


 俺はその、一点だけを信じて、ボールに食らいついた。


 神宮寺のその、いやらしい揺さぶりに、俺はコートを駆けずり回り、そして、必死にボールを拾い続ける。


 その、泥臭いプレー。


 だが、その一球一球が、確実に、相手の精神を蝕んでいくのが、分かった。


 神宮寺のその、完璧なはずだった表情に、初めて明確な、焦りの色が浮かび上がる。


 彼の返球が、ほんのわずかに甘くなった。


 俺は、その瞬間を、見逃さない。


 一歩踏み込み、そして、渾身のドライブを叩き込んだ!


 部長 9 - 8 神宮寺


 次の、俺のサーブ。


 同じ、展開。


 俺は、粘る。


 そして、相手の、ミスを、誘う。


 部長 10 - 8 神宮寺


 セットポイント、俺。


 サーブ権は、相手に、移る。


 追い詰められた、神宮寺。


 彼の放ったサーブは、下回転の、短いショートサーブ


 ここで決めきる!


 俺は、全力で台に飛び付き、チキータでの二球目攻撃を放つ!


 その圧倒的なスピードに神宮寺は、反応できず、ラケットは虚しく空を切る。


 部長 11 - 8 神宮寺


「しゃああああああっ!!!」


 俺は、天に向かって、雄叫びを上げた。


 セットカウントは、部長 1 - 2 神宮寺。


 まだ、負けている。


 だが、流れは完全に、俺のものだ。


 俺はベンチで、祈るように俺を見つめていたあかねに向かって、力強くガッツポーズをしてみせた。


 そうだ。


 俺たちの大逆転劇は、まだ始まったばかりだ。


 このまま、一気にまくってやる。

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