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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
476/674

灯された炎

 部長 3 - 8 神宮寺


 一点。


 たかが、一点。


 だが、その一点は、この試合の流れを、完全に変える、奇跡の始まりの一点だった。


 俺の大逆転劇が、今幕を開けたのだ。


 俺は、再び観客席の、しおりを見た。


 彼女は相変わらず、涼しい顔でこちらを、見ている。


 だが、俺には聞こえる。


 彼女が、前に俺に言った、あの言葉が。


『あなたの卓球は、読みやすいし返しやすい。しかし、その泥臭い粘りと、諦めない心。その二つにおいては、私の予測を、凌駕することがあります』


 そうだ。


 俺にはパワーだけじゃ、ねえ。


 この泥臭い粘りと、諦めない心がある。


 しおりのあの、完璧な分析能力ですら、予測不能な動きを生み出す、この二つが、ある限り。


 あの神宮寺の予測だって、外すことができるはずだ!


 俺は完全に、吹っ切れた。


 ここからは、俺の、独壇場だ。


 神宮寺の、サーブ。


 俺はもう、無理に攻めない。


 ただ、ひたすらに、返す。


 神宮寺は、その俺の、あまりにも非合理的な、プレーに戸惑い、そして、決めきれない、そんな状況に焦り始めていた。


 彼の精密な卓球は、俺のその、泥臭い粘りの前に、少しずつ、その精度を、失っていく。


 彼のスマッシュを、俺はコートを、駆けずり回り、そして、必死に拾い続ける。


 どんなに厳しいコースを突かれても、どんなに体勢を、崩されても、俺は諦めない。


 ボールを相手のコートに、返し続ける。


 一点、また一点と、俺はポイントを、重ねていく。


 体育館の、空気が変わる。


 観客席から、俺への声援が、地鳴りのように、響き渡る。


 その声援が、俺の体に、新しい力を、与えてくれる。


 そしてついに、その瞬間が、訪れた。


 神宮寺のドライブが、ネットを越え、俺のコートに突き刺さる。


 俺は、それに飛びつき、そして、渾身の力で、ボールを拾い上げた。


 ボールは、高く舞い上がり、そして、相手のコートのエッジに当たり、不規則なバウンドをして、転がっていった。


 部長 8 - 8 神宮寺


「よしっ!!!」


 俺は、天に向かって、雄叫びを上げた。


 ようやく、追いついたぜ!


 俺の心の中で、更に炎が、燃え上がる。


 その俺の姿を見て、ネットの、向こう側で、神宮寺が、初めて、動いた。


 彼は静かに手を上げ、そして審判に、告げた。


「――タイムアウトをお願いします」


 俺は、ニヤリと、笑った。


 面白い。


 どこまでも、やってやるぜ。


 この試合の主導権は、今、完全に、俺の手にあったのだから。

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