終わる試合
静寂 8 - 4 竹村
ネットの向こう側で、竹村選手が、膝に手をつき、肩で大きく、息をしている。
その瞳には、状況とは裏腹に、まだ、闘志の光が輝いていた。
それでも、この状況は、もう、どうにもならないだろう。
(…もう、終わりですね)
私は静かに、そして冷徹に、そう結論付けた。
この試合の結末は、もう変わらない。
私の完全なる勝利、という結末へと。
完全に私のペースにハマった、竹村選手は、健闘虚しく、私のその、変幻自在の卓球の前に、ただ翻弄され、そして、ポイントを重ねられていく。
そして、最後は。
私が放った、アンチドライブが、彼女のコートに突き刺さり、この試合の幕は、引かれた。
静寂 11 - 5 竹村
試合終了。
私はネット際に歩み寄り、そして深く一礼をした。
ネットの向こう側で、竹村選手もまた、私に深く頭を下げていた。
その表情には、敗北の悔しさ、というよりも、むしろどこか、清々しい色が、浮かんでいる。
「…完敗だ。参ったよ、静寂さん」
彼女が差し出してきた手を、私は、自然と握手で返していた。
「あなたのその卓球。特に、台上の技術の高さ。あれは、一朝一夕で、身につくものじゃない。異常なまでの努力で、獲得したものなんだね。敬意を感じるよ。」
竹村選手だからこそ、分かる、私の技術の本質。
私もまた、彼女に心からの敬意を、感じていた。
「…あなたも素晴らしかった。私がどんなに心を折ろうとしても、あなたは最後まで、諦めなかった。 その闘志に、敬意を」
私たちの間に、確かに生まれた、アスリートとしての、絆。
彼女は、最後に、にっと笑った。
「次の試合、楽しみにしている。 全国には、あなたみたいな化け物が、まだゴロゴロ、いるんだろう?」
「さあ、どうでしょうね」
私もまた、ほんのわずかに、口元を緩ませた。
「…私ももう一度、あなたと試合をしたいです。今度は付け焼き刃ではなく、完成された戦術を、もっと最初から、全力で」
その一言を交わし、私たちはそれぞれのベンチへと戻る。
私は、未来さんと共に、観客席で私を待つ、仲間たちの元へと、歩き出した。
この全国大会という、舞台。
それは私に、勝利だけでなく、新しい好敵手との、出会いという、素晴らしい贈り物も、また与えてくれる、場所らしかった。