第46話 ある少女と先輩
「もう先輩っ!付いてくるなら遅れないでくださいよ!お陰で2本も電車逃したんですからね!?」
私は県大会に進んだしおりの卓球を観戦するために、他県から遠征していた。……この遅刻常習犯の空知先輩と。
「いやあ悪い悪い、昔の全国大会の試合を観ていてなー、やっぱ凄えなー水谷選手は、今でも伝説と呼ばれてるだけあるぜ」
空知先輩は悪びれる様子もなく、スッカスカの電車の席に座っている。
「もう、少しは反省してくださいよ!この大会には私の……!いや何でもないですけど、絶対に上がってくる注目の選手が居るんですからっ!」
こんなヘラヘラしてる先輩だけど、こんなんでも私の県では卓球の強豪校として知られる北園学園の主将を務めてる、いざという時は頼りになる人だ。
「照れなくてもいいって、静寂だろ?お前昔から、スポーツクラブの時からずっと探してるって周りに言ってたじゃねえか、想い人が見つかって良かったな」
お、想い人!?いや私は勿論しおりのことが大好きだけど、そういうのは順序とか色々必要だしぃ!?
「お~い、心の声漏れてるぞー」
「んな!?」
不覚だった、あの時、小学3年生の時に見失ったしおりが見つかって舞い上がっちゃったのかも。
「……でも、しおりが私の事を許してくれるとは思えないんです」
『あなたなんか、友達じゃない』
しおりが泣きながら放ったその言葉、しおりが受けている家庭内暴力から私を遠ざけることだと分かっていた。
私は、しおりにずっと助けられてきた。クラスでいじめに近いような扱いから救ってくれたのは、転校してきたしおりだった。
私の孤独を察して常に話しかけてくれて、初めて『友達になろう』と言ってくれたのもしおりだった。
私はあの時、抱きしめてあげられればよかったんだ、一人じゃないって、伝えたかった。
でも私は、あの時動くことすら出来なかった。
だから、卓球というしおりと繋がっていた細い、あまりにも細い糸を辿るように卓球に打ち込んだ。
今度こそ、言葉と共にこの白球を届かせるために。
ローカル局のテレビでしおりを見た時は心臓がとまるかと思った。私がなんとか突破した市町村大会を、彼女はまるで作業をするかのように突破してみせた。
けれど、彼女の卓球は変わり果てていた、あれほどボールを追いかけるのが好きだったしおりが、あれほど相手へのリスペクトを忘れないしおりが。
――あれほど楽しそうに卓球をしていたしおりが。
まるで勝つことのみが目的になったかのように、システムチックに相手を薙ぎ払っていた。
……しおり、あれから一体何があったの?何がそこまであなたを追い詰めたの?
「はあ……、お前の両親が心配するのも頷けるな、そんなに思い詰めた顔して」
空知先輩がワシャワシャと私の頭を撫でてくる。
「っもう先輩!しおりと会うかもしれないからせっかく髪の毛可愛くセットしたのに!」
私が文句をいうと空知先輩はそれでいいと言わんばかりに笑みを浮かべている。
「俺たちぐらいのガキの喧嘩なんて、ごめんなさいが出来れば大体仲直りになる、それに、……お前のお母さんから事情は大体聞いているが、その静寂って奴からすれば許すも何も怒ってないと思うけどな」
能天気に笑う先輩の楽観的な話が、私にとっては救いだった。
「いい話風な事言って誤魔化そうとしても無駄ですからね先輩!遅刻した分ジュースを奢ってくださいね!」
私は軽口を挟みながら、しおりがプレイする舞台になる体育館へと向かった。
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R・D




