電光石火(2)
静寂 1 - 1 竹村
体育館がこの日一番の、割れんばかりの、歓声に包まれる。
流れが、変わる。
私のその、粘りの前に、彼女のあの、絶対的だった速攻に、僅かな亀裂が入る。
この試合の主導権は、まだ、誰の手にも渡らない。
ただそこには、二人の天才が、互いの全てを懸けて、戦っている、という事実だけが、あった。
サーブ権は、竹村選手。
ここから試合のテンポは、さらに加速していく。
竹村選手のサーブに裏ソフトでスピードドライブを放つ
先手を、取るための、一撃。
竹村選手は、それにドライブで、応戦してくる。
ラリーが、始まる。
一球、一球が、互いの、全てを、叩きつけるような、電光石火の、打ち合い。
静寂 2 - 1 竹村
静寂 2 - 2 竹村
静寂 3 - 2 竹村
静寂 3 - 3 竹村
互いに、一歩も譲らない。
チャンスを見たプレイヤーがそれを活かし、確実にポイントを、奪っていく。
それはもはや、卓球ではない。
コンマ数秒の世界の中で、繰り広げられる、思考と反射の勝負。
静寂 6 - 6 竹村
その均衡を、破ったのは、ほんの僅かな変化だった。
私の、サーブ。
私は、それまでの速攻のリズムから一転、ネット際に短く止まる、ストップ性のサーブを、放った。
その、あまりの緩急の差に、竹村選手の反応が、コンマ数秒、遅れる。
その、一瞬の、隙。
私は、見逃さない。
静寂 7 - 6 竹村
だが、彼女もまた、全国の強豪。
彼女は、今度は、ドライブで私を揺さぶり、そして、確実にポイントを、重ねてくる。
静寂 8 - 8 竹村
再び、イーブン。
体育館の、熱気が最高潮に、達する。
息詰まる、攻防。
その中で、私の思考は、どこまでも冷静だった。
(…あなたのその、電光石火の速攻。確かに素晴らしい。だが、そのあまりの速さ故に、あなたの思考には、僅かな隙が、生まれる)
サーブ権は、私。
私は、彼女のその、思考の隙間へと、私の最も得意とする「異端」の刃を、突き立てる。
YGサーブ。
そして、そこからの、三球目攻撃。
彼女は、もう、それに、対応できない。
静寂 9 - 8 竹村
だが、勝負は、まだ決まらない。
この、電光石火の攻防の決着は、どちらが先に、相手の隙を、咎められるか。
ただ、それだけの戦いへと、変わっていた。
私のショータイムは、まだ終わらない。