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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
468/674

電光石火

 第二セット。セットカウント 静寂 1 - 0 竹村。


 私のサーブから、始まる。


 私は、彼女のその強い意志を、受け止め、そしてあえて、彼女の土俵へと、足を踏み入れた。


 三球目攻撃と、五球目攻撃を用意し、そして、下回転のショートサーブを、放つ。


「――っ!」


 竹村選手は、それを待ってましたとばかりに、台に深く踏み込み、そして手首をしなやかに、使った、チキータを、放ってきた!


 それはまさに、電光石火。


 ボールは、私の予測を僅かに上回るスピードとコースで、私のコートを、撃ち抜いた。


 静寂 0 - 1 竹村


(…なるほど。第二セット、最初からこれですか)


 私の思考ルーチンが、瞬時に状況を分析する。


(彼女はもう迷わない。自分の得意な速攻で、私を打ち破る、という、強い意志)


(ならばこちらも、応えなければ)


 私のサーブ、二本目。


 私は再び、同じショートサーブを放つ。


 竹村選手は再び、チキータで応戦してくる。


 だが今度は、私もそれを、読んでいた。


 私は、彼女のチキータに対し、ラケットをアンチラバーの面に合わせ、その威力を殺し、そして、ネット際に短く、コントロールする。


 だが、彼女の反応は、速い。


 彼女はその、ストップボールを、さらにフリックで、攻撃してくる。


 ここから、壮絶な、打ち合いが、始まった。


 竹村選手は、電光石火の如く、早い打点で、次々と、攻撃を仕掛けてくる。


 フォアへバックへと、休む暇もなく、私を揺さぶる。


 私は、その、圧倒的な攻撃の前に、防戦一方となる。


 私は台から、一歩、また一歩と、下がる。


 そして、その体勢から彼女の、ドライブの奔流を、ただ、ひたすらに凌ぎ続ける。


 それはもう、カットでは、ない。


 ただの、ブロックでも、ない。


 より粘りの、効くロングでの、打ち合い。


 彼女の「速攻」に対し、私は「粘り」で対抗する、踏み込む隙を探しながら


 ラリーが、10本15本と、続いていく。


 私の瞳は、ただ一点だけを、見つめていた。


 彼女のその、完璧なフォームの中に潜む、ほんのわずかな「隙」を。


 そしてラリーが、20本を超えた、その時。


 ついに、彼女の足が止まった。


 焦りと、そして疲労。


 彼女が放ったドライブが、ほんのわずかに、力なく、そしてコースが甘くなった。


(――今っ!)


 私はそれまで粘り続けていた、その守備の体勢から一転、電光石火の速さで、前に踏み込む。


 そしてその、甘くなったボールを、私の赤い裏ソフトの面が、完璧に捉えた。


 フォアハンドの、強烈なカウンタードライブ。


 それはしなり、そして加速し、竹村選手の反応すら許さず、コートの一番深い、隅へと突き刺さった。


 静寂 1 - 1 竹村


 体育館がこの日一番の、割れんばかりの歓声に、包まれる。


 流れが、変わる。


 私のその、粘りの前に、彼女のあの絶対的だった、速攻に、僅かな亀裂が、入る。


 この試合の主導権は、まだ、誰の手にも渡らない。


 ただそこには、二人の天才が、互いの全てを懸けて、戦っている、という、事実だけがあった。



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