電光石火
第二セット。セットカウント 静寂 1 - 0 竹村。
私のサーブから、始まる。
私は、彼女のその強い意志を、受け止め、そしてあえて、彼女の土俵へと、足を踏み入れた。
三球目攻撃と、五球目攻撃を用意し、そして、下回転のショートサーブを、放つ。
「――っ!」
竹村選手は、それを待ってましたとばかりに、台に深く踏み込み、そして手首をしなやかに、使った、チキータを、放ってきた!
それはまさに、電光石火。
ボールは、私の予測を僅かに上回るスピードとコースで、私のコートを、撃ち抜いた。
静寂 0 - 1 竹村
(…なるほど。第二セット、最初からこれですか)
私の思考ルーチンが、瞬時に状況を分析する。
(彼女はもう迷わない。自分の得意な速攻で、私を打ち破る、という、強い意志)
(ならばこちらも、応えなければ)
私のサーブ、二本目。
私は再び、同じショートサーブを放つ。
竹村選手は再び、チキータで応戦してくる。
だが今度は、私もそれを、読んでいた。
私は、彼女のチキータに対し、ラケットをアンチラバーの面に合わせ、その威力を殺し、そして、ネット際に短く、コントロールする。
だが、彼女の反応は、速い。
彼女はその、ストップボールを、さらにフリックで、攻撃してくる。
ここから、壮絶な、打ち合いが、始まった。
竹村選手は、電光石火の如く、早い打点で、次々と、攻撃を仕掛けてくる。
フォアへバックへと、休む暇もなく、私を揺さぶる。
私は、その、圧倒的な攻撃の前に、防戦一方となる。
私は台から、一歩、また一歩と、下がる。
そして、その体勢から彼女の、ドライブの奔流を、ただ、ひたすらに凌ぎ続ける。
それはもう、カットでは、ない。
ただの、ブロックでも、ない。
より粘りの、効くロングでの、打ち合い。
彼女の「速攻」に対し、私は「粘り」で対抗する、踏み込む隙を探しながら
ラリーが、10本15本と、続いていく。
私の瞳は、ただ一点だけを、見つめていた。
彼女のその、完璧なフォームの中に潜む、ほんのわずかな「隙」を。
そしてラリーが、20本を超えた、その時。
ついに、彼女の足が止まった。
焦りと、そして疲労。
彼女が放ったドライブが、ほんのわずかに、力なく、そしてコースが甘くなった。
(――今っ!)
私はそれまで粘り続けていた、その守備の体勢から一転、電光石火の速さで、前に踏み込む。
そしてその、甘くなったボールを、私の赤い裏ソフトの面が、完璧に捉えた。
フォアハンドの、強烈なカウンタードライブ。
それはしなり、そして加速し、竹村選手の反応すら許さず、コートの一番深い、隅へと突き刺さった。
静寂 1 - 1 竹村
体育館がこの日一番の、割れんばかりの歓声に、包まれる。
流れが、変わる。
私のその、粘りの前に、彼女のあの絶対的だった、速攻に、僅かな亀裂が、入る。
この試合の主導権は、まだ、誰の手にも渡らない。
ただそこには、二人の天才が、互いの全てを懸けて、戦っている、という、事実だけがあった。