インターバル
静寂 11 - 4 竹村
第一セット、終了。
私と竹村選手は、それぞれ振り返り、ベンチへと、歩き出した。
スコアだけを、見れば、圧勝。
だが、私の思考ルーチンはこの結果に、対し明確な違和感を、検知していた。
ベンチに戻ると、未来さんが、いつものように、静かに、タオルとドリンクを、差し出してくれた。
私はそれを受け取り、そしてすぐに、口火を切った。
「未来さん。この第一セット。何か気づいたことは、ある?」
「はい」と、未来さんは頷いた。
「あなたと同じ違和感を、私も、感じていました」
「竹村選手だけど」と、私は続ける。
「彼女は、第一セットのほとんどの、場面で、台上の捌き合いに、固執していた。最初はプライドで意固地になっていると、思っていたんだけど、全国大会まで、登り詰めた選手が、そう簡単なはずがない」
そうだ。
あの竹村選手。彼女の瞳は、一度も死んではいなかった。
まるで、何かを試すように、私と打ち合っていた。
私のその言葉に、未来さんが彼女なりの分析を、重ねてくる。
「ええ。私の観測では、彼女は、序盤はあなたのデータを収集するように、コーチから言われていたのかも、しれません」
「…データ収集?」
「はい。あなたの噂東京までは届いていない。けれども、一年生で全国大会出場は目立ちます。なにかその原動力となるものがあると見て、そのデータを、まずその身で体験し、そして分析する。もし、台上の勝負が優勢なら、そのまま畳みかける予定だったのでは、ないでしょうか」
未来さんの、その分析。
それは、私の感じていた違和感の正体を、完璧に言語化したものだった。
「…ですが、その目論見は、あなたの前では通用しなかった。だからこそ、彼女は、次のセット、必ず戦術を、変えてきます」
未来さんの、瞳に、強い光が宿る。
「次は本当の打ち合いが、始まります。 おそらく、彼女は一年と三年、その身体的な力の差を活かした、プレー、とうとう、相手の全力が、来るかもしれません」
(…なるほど。面白い)
私の口元に、ほんのわずかに、笑みが浮かぶ。
そうだ。
それでこそ、全国の舞台だ。
それでこそ、私の敵だ。
私は、頷いて、ラケットを強く握りしめた。
インターバル終了を、告げるブザーが、鳴り響く。
私は立ち上がり、コートへと向かう。
ショータイムは、ここから始まる。
ここからは、魂と魂がぶつかり合う、本当の死闘が、始まるのだから。