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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
466/674

台上の捌き合い(3)

 静寂 8 - 4 竹村


 ネットの向こう側で、竹村選手が、初めてその表情に、明確な、焦りの色を、浮かべていた。


 彼女はようやく、気づき始めたのかもしれない。


 自分が迷い込んだ、この台上の迷路の出口が、どこにもない、という事実に。


 そして、その迷路の支配者が、ただ一人、私であるという事実に。


 サーブ権は私。


 私は、ここで彼女のその、最後の希望を、断ち切るための、一手を打つ。


 私は、これまでの短いサーブとは、全く異なる、大きな、テイクバックから、サーブを、放った。


 それは、誰もがロングサーブを予測する、モーション。


 竹村選手の体が、後ろに下がるのを、予測して、僅かに動く。


 だが、私が放ったのは、その全ての予測を裏切る、ネット際に、短くそして、高く弾む、ナックルサーブだった。


 アンチラバーの面で、ボールの真芯を、叩くことで生み出される、異質な弾道。


 それは、彼女の、思考の、前提を、完全に、破壊する、一球。


「――っ!」


 彼女は慌てて、前に、駆け込む。


 そして、そのバウンドしたボールを、強打しようと、ラケットを振るう。


 だがそこには、回転というものが、存在しない。


 彼女の、渾身の攻撃は、空を切り、ボールは、彼女のラケットの、下をすり抜けていった。


 静寂 9 - 4 竹村


 私のサーブ、二本目。


 私は、再び、同じ大きな、モーションに入る。


 竹村選手の思考は、完全に、迷子になっている。


(…ロングか?ショートか?スピンか?ナックルか?高いのか?低いのか?)


 その全ての可能性が、彼女の頭の中で、渦巻いている。


 だが、その答えは、その、どれでもない。


 私が、放ったのは、赤い裏ソフトの面で、切った、強烈な下回転のロングサーブ。


 彼女の、バックサイド深くへと、突き刺さる、あまりにも、オーソドックスな、一球。


 彼女はその、あまりの単純さに、深読みをしすぎ、反応が遅れた。


 彼女は、必死に、そのボールをドライブで持ち上げる。


 だが、その返球は、甘い。


 私は、その甘いボールを、待っていた。


 一歩踏み込み、そして、ラケットをひらりと、翻す。


 赤い、裏ソフトの面。


 そして放ったのは、バックハンドでの、ループドライブ


 ボールは、ネットの白線の上を、するりと越え、そして、バウンドと同時に鋭く、早いボールへと姿を変える。


 彼女は、そのボールの、目測を誤り、返球することができなかった。


 静寂 10 - 4 竹村


 サーブ権は、竹村選手。


 彼女の瞳には、まだ、闘志の炎が燃え上がっている。


 彼女は、台上での勝負をやめ、下回転のロングサーブで勝負にでる。


 私は、そのサーブをチキータで打ち返し、完璧な二球目攻撃を成功させた。


 静寂 11 - 4 竹村


 第一セット、終了。


 私と竹村選手は、それぞれ振り返り、ベンチへと歩き出した。


 この試合の結末は、まだ分からない、そう感じた。

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