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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
465/674

台上の捌き合い(2)

 静寂 2 - 0 竹村


(あなたのその得意な土俵。そこで、あなたを上回ってあげる)


 ネットの向こう側で、竹村選手が悔しそうに、唇を噛み締めているのが、見えた。


 だが、その瞳の光は、まだ消えてはいない。


 彼女もまた、この、台上のチェスを、楽しんでいるのだ。


 サーブ権が、私に移る。


 私は、彼女のその、挑戦的な視線を、真っ向から受け止め、そして、私もまた、下回転のショートサーブから、台上の捌き合いを、挑んだ。


 ここからは、純粋な技術と思考の、捌き合いの戦いになる。


 ツッツキ、ストップ、フリック。


 ミリ単位のコントロールと、コンマ数秒の判断力。


 その応酬の中で、竹村選手は感じていた。紙一重で、しおりの方が上だ、と。


 私の方が、一枚上手だ、と。


 だが、彼女はそれを、認めたくなくて、プライドがそれを、許さなくて、それでも台上の捌き合いを、挑み続ける。


(…なぜ、あなたは、その、戦術に、固執する…?)


 私は冷静に、彼女の思考を、分析する。


(あなたのその、体躯の有利を捨ててまで、この土俵で戦うのは、合理的ではない。 私が不利になるのは、ロングでの、打ち合いのはずだ)


 そして、私は気づく。


 彼女のその、勘違いの根源に。


(…なるほど。あなたはまだ、気づいていないのか)


 彼女は私が裏ソフトとアンチラバーを、フォアバック、両方で持ち替えて、カバーしている、という、事実に。


 彼女は私が、彼女と同じ、裏ソフト二枚の、選手だと思っている。


 試合前の、相手のラバーの確認、アンチラバーの見た目は、裏ソフトと似ている、メーカーの名前を見るか、触るかしないと、意外と気付けないのだ。


 だから彼女は、台上の細かいプレーで、私に勝てると、信じている。


 だが、現実は違う。


 私には、彼女の倍の選択肢が、ある。


 ナックルと、スピン。


 殺すボールと、生かすボール。


 その、無限の組み合わせが、ある。


 そこに気づけない、竹村選手は、私のその、幻惑の前に、じわじわと、しかし確実に追い詰められていく。


 私のアンチでのストップが、彼女の、予測を裏切る。


 私の裏ソフトでのチキータが、彼女の、逆を突く。


 どんどん点差ができ、スコアは8-4で、私のリードとなった。


 ネットの向こう側で、竹村選手が、初めて、その表情に、明確な、焦りの色を、浮かべていた。


 彼女はようやく、気づき始めたのかもしれない。


 自分が迷い込んだ、この盤上の迷路の出口が、どこにもない、という事実に。


 そして、その迷路の支配者が、ただ一人、私である、という、事実に。

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