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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
464/674

台上の捌き合い

 私は、その確かな温もりを胸に、決戦の舞台へと、足を踏み出した。


 コートの中央で、対戦相手である、初雷女学園の、竹村選手と向き合う。


 彼女は三年生。私よりも一回り大きな、体格。その瞳には、全国の舞台に相応しい、強い闘志が、宿っている。


「「よろしくお願いします」」


 静かな挨拶と共に、私の全国大会、二回戦の、幕が上がった。


 第一セット。


 サーバーは竹村選手。レシーバーは、私。


 彼女が放ったのは、質の高い、下回転のショートサーブだった。


 ネット際に低く、そして鋭く、コントロールされた、一球。


 それは私に、安易な攻撃をさせず、そして、台の上で勝負しようという、彼女の明確な、意志表示だった。


(…なるほど。面白い)


 私の思考が、瞬時に、彼女の意図を分析する。


(私の一回戦の戦いから、私が、台上での細かいプレーを得意としない、と判断したか。あるいは単純に、自分の土俵で勝負しようと、しているのか)


(いずれにせよ、この私に、台上で勝負を挑むとは。その勇気だけは、評価してあげる)


 私は、そのサーブに対し、ラケットを、裏ソフトの面に合わせた。


 そして、彼女のその挑戦に、乗る。


 ツッツキでの、繊細なやり取りが、始まった。


 ボールは、ネットの白線の上を、行ったり来たり。


 互いの全ての神経が、その小さな、白いボールに、注がれている。


 そしてラリーが、5本目を超えた、その時だった。


 竹村選手のツッツキが、ほんのわずかに甘くなった。


 好機。


 私は、その瞬間を、見逃さない。


 ラケットをひらりと翻し、アンチの面に持ち替え、ボールの回転を完全に無効にし、そして、食い付くようにして、彼女のフォアサイド、一番厳しいコースへと、鋭く、そして低く返球した!


 そのあまりにも異質な、そして、予測不能なボール。


 竹村選手は、必死にそれに食らいつくが、彼女の伸ばしたラケットは、ラケット一つ分、届かなかった。


 ボールは、静かに、ツーバウンドし、そして、私の得点となった。


 静寂 1 - 0 竹村


 私は静かに、そして冷徹に、次の一手を、思考する。


 この試合の主導権の奪い合い、それが私に傾いている。


 観客席から、仲間たちの声援が、聞こえてくる。


 その暖かいノイズが、私の背中を、強く押してくれていた。


 竹村選手は、動じない。


 彼女は再び私を、得意な台上の捌き合いへと、誘う。


 先ほどよりもさらに低く、そして、回転の分かりにくい、ショートサーブ。


 それは、私に強打をさせず、そして、彼女の得意な土俵へと、引きずり込むための、巧妙な罠。


(…なるほど。あなたのその自信。受けて、立ってあげる)


 私は、そのサーブに対し、ラケットをひらりと、翻した。


 黒いアンチラバーの、面。


 そしてボールのバウンドの頂点を捉え、その回転を殺し、そして、ネット際に、ぽとりと落とす。


 デッドストップ。


 ここから、私たちの、台上のチェスが始まった。


 彼女は、私のその死んだ、ボールを、ツッツキで、深く返球してくる。


 私はそれを、裏ソフトの面で、さらに短く、止める。


 彼女がそれを、フリックで攻撃してくれば、私は、それをアンチで、いなす。


 一球一球に、互いの、全ての読みと技術が、凝縮されていく。


 それはもはや、パワーやスピードでは、ない。


 思考と思考の、ぶつかり合い。


 ラリーが、10本を超えた、その時だった。


 彼女のツッツキが、ほんのわずかに、ネットから浮き上がった。


 そのコンマ数ミリの、変化。


 それこそが、私がずっと待っていた「隙」


 私は、その瞬間を、見逃さない。


 それまで守備的に動いていた私の体が、一瞬で攻撃へと転じる。


 私は、台に深く踏み込み、そして、その浮き上がった、ボールに対し、ラケットを高速で、反転させた。


 裏ソフトの、バックハンド。


 そしてそこから放たれる、強烈なサイドスピンを、かけた、チキータ!


 ボールは、彼女の予測とは、全く違う軌道を描き、そして彼女のラケットを、弾き飛ばさんばかりの勢いで、コートに突き刺さった。


 静寂 2 - 0 竹村


(あなたのその、得意な土俵。そこであなたを、上回ってあげる)


 ネットの向こう側で、竹村選手が、悔しそうに唇を噛み締めているのが、見えた。


 だが、その瞳の光は、まだ消えてはいない。


 彼女もまた、この台上の、チェスを、楽しんでいるのだ。


 私の本当の、ショータイムは、まだ始まったばかりだ。


 この、強敵との、「対話」は、まだ、続く。

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