全国大会・一回戦の後で
「…当然です」
私は、そう言って、静かに頷いた。
その、私たちの、認め合う姿。
それを、仲間たちが、温かい眼差しで、見守っていた。
シングルス一回戦は、終わった。
勝った報酬として、つかの間の休息を、私たちは受け取った。
「じゃあ私は、ちょっと手続きしてくるから。お前達は、次の試合まで、ゆっくり休んでろよ」
顧問の先生が、そう言って、席を立つ。
どうやら大会運営に用があるようだ、先生にも力を貸してもらってる。
私たちは先生に一礼し、そして、残された五人で、再び腰を下ろした。
その沈黙を、最初に破ったのは、やはりあかねさんだった。
彼女は、興奮冷めやらぬといった様子で、私と部長の顔を、交互に見ながら言った。
「でも本当に、二人ともすごかったよ!私、見てて、鳥肌立っちゃった!」
「だろ?俺のパワーの前に、敵はなかったぜ!」
部長が、得意げに胸を張る。
「…あなたの相手は、変化球主体でしたので、パワープレーが有効だったのは、当然の帰結です。私の相手も、パワー主体でしたが、あなたの下位互換。参考にはなりません」
私がそう冷静に分析すると、部長が「お前は、いちいち、可愛くねえな!」と、顔をしかめる。
その、私たちのいつも通りのやり取りを見て、あおと、未来さんが、くすくすと笑っている。
あおが、私の腕に絡みつきながら、言った。
「でも本当にすごかったよ、しおり!あのYGサーブからの、スマッシュ!鳥肌、立った!」
「YGサーブは、私も使ってきたからね、対応策だって何個か持っているものだよ、あおも決め球とそれへの対策を持っていると言いかもね」
私は、すこし意地悪げに話す。
「むー!しおりの、いじわる!」
そのあおとの、他愛のない会話。
私の胸の奥が、またぽかぽかと、温かくなっていく。
その光景を見ていた、未来さんが、静かに口を開いた。
「…ですが部長さん。あなたの一回戦の相手。変化球主体、と言っていましたが、その質の高さは本物だったんじゃないですか?変化球で全国大会まで登り詰めた選手、並みの選手なら、対応に苦慮するはずです」
未来さんの、その的確な、分析。
「ああ。正直、一年前の俺なら、やられてたかもな」
部長が真剣な、顔で頷く。
「でもまあ、俺には毎日、こいつの魔球を受けてるっていう、最高の練習が、あるからな」
彼はそう言って、私の頭を、わしわしと撫でた。
その大きな、手の感触。
私はそれを、振り払うことはしなかった。
「しおりちゃんのお陰、ってことですね!」
あかねさんが、嬉しそうに笑う。
その言葉に、私は静かに、首を横に振った。
「…いえ。私のおかげでは、ありません」
私は、仲間たちの顔を、一人一人、見つめて言った。
その声は、自分でも驚くほど素直で、そして、温かかった。
「部長との練習。あかねさんのサポート。未来さんの分析。そして、あおの応援。その全てのデータが、あってこその勝利です。一年前の私は、全てを自分の勝利へと繋げる変数としか、考えていませんでした。そんな私では、勝ち抜けた筈もない、だから、…私一人では、ここまで来れませんでした」
私のその言葉に、その場の空気が、一瞬だけ静かになる。
そして、次の瞬間。
部長とあかねさんと、あおが、顔を見合わせ、そして同時に、太陽のような、笑顔を見せた。
未来さんもまたその、深淵のような瞳の奥で、優しく、微笑んでいた。
そうだ。
これこそが、私が、彷徨の果てに手に入れた、新しい「力」。
仲間との絆という名の、最強の変数。
この力が、ある限り、私たちは、きっと、どこまでも高く飛べるはずだ。
私はその確かな予感を胸に、次の戦いへと、思考を巡らせていた。