表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
462/674

全国大会・一回戦の後で

「…当然です」


 私は、そう言って、静かに頷いた。


 その、私たちの、認め合う姿。


 それを、仲間たちが、温かい眼差しで、見守っていた。


 シングルス一回戦は、終わった。


 勝った報酬として、つかの間の休息を、私たちは受け取った。


「じゃあ私は、ちょっと手続きしてくるから。お前達は、次の試合まで、ゆっくり休んでろよ」


 顧問の先生が、そう言って、席を立つ。


 どうやら大会運営に用があるようだ、先生にも力を貸してもらってる。


 私たちは先生に一礼し、そして、残された五人で、再び腰を下ろした。


 その沈黙を、最初に破ったのは、やはりあかねさんだった。


 彼女は、興奮冷めやらぬといった様子で、私と部長の顔を、交互に見ながら言った。


「でも本当に、二人ともすごかったよ!私、見てて、鳥肌立っちゃった!」


「だろ?俺のパワーの前に、敵はなかったぜ!」


 部長が、得意げに胸を張る。


「…あなたの相手は、変化球主体でしたので、パワープレーが有効だったのは、当然の帰結です。私の相手も、パワー主体でしたが、あなたの下位互換。参考にはなりません」


 私がそう冷静に分析すると、部長が「お前は、いちいち、可愛くねえな!」と、顔をしかめる。


 その、私たちのいつも通りのやり取りを見て、あおと、未来さんが、くすくすと笑っている。


 あおが、私の腕に絡みつきながら、言った。


「でも本当にすごかったよ、しおり!あのYGサーブからの、スマッシュ!鳥肌、立った!」


「YGサーブは、私も使ってきたからね、対応策だって何個か持っているものだよ、あおも決め球とそれへの対策を持っていると言いかもね」


 私は、すこし意地悪げに話す。


「むー!しおりの、いじわる!」


 そのあおとの、他愛のない会話。


 私の胸の奥が、またぽかぽかと、温かくなっていく。


 その光景を見ていた、未来さんが、静かに口を開いた。


「…ですが部長さん。あなたの一回戦の相手。変化球主体、と言っていましたが、その質の高さは本物だったんじゃないですか?変化球で全国大会まで登り詰めた選手、並みの選手なら、対応に苦慮するはずです」


 未来さんの、その的確な、分析。


「ああ。正直、一年前の俺なら、やられてたかもな」


 部長が真剣な、顔で頷く。


「でもまあ、俺には毎日、こいつの魔球を受けてるっていう、最高の練習が、あるからな」


 彼はそう言って、私の頭を、わしわしと撫でた。


 その大きな、手の感触。


 私はそれを、振り払うことはしなかった。


「しおりちゃんのお陰、ってことですね!」


 あかねさんが、嬉しそうに笑う。


 その言葉に、私は静かに、首を横に振った。


「…いえ。私のおかげでは、ありません」


 私は、仲間たちの顔を、一人一人、見つめて言った。


 その声は、自分でも驚くほど素直で、そして、温かかった。


「部長との練習。あかねさんのサポート。未来さんの分析。そして、あおの応援。その全てのデータが、あってこその勝利です。一年前の私は、全てを自分の勝利へと繋げる変数としか、考えていませんでした。そんな私では、勝ち抜けた筈もない、だから、…私一人では、ここまで来れませんでした」


 私のその言葉に、その場の空気が、一瞬だけ静かになる。


 そして、次の瞬間。


 部長とあかねさんと、あおが、顔を見合わせ、そして同時に、太陽のような、笑顔を見せた。


 未来さんもまたその、深淵のような瞳の奥で、優しく、微笑んでいた。


 そうだ。


 これこそが、私が、彷徨(ほうこう)の果てに手に入れた、新しい「力」。


 仲間との絆という名の、最強の変数。


 この力が、ある限り、私たちは、きっと、どこまでも高く飛べるはずだ。


 私はその確かな予感を胸に、次の戦いへと、思考を巡らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ