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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
459/674

VSパワー(7)

 セットカウント  静寂 1 - 0 山下


 静寂 10 - 7 山下


 セットポイントは私。


 だが、ネットの向こう側で、山下選手の、その瞳の光は、まだ消えてはいなかった。


 彼女は、諦めていない。


 この絶望的な状況下で、なお勝利への執念を、燃やし続けている。


 さすがは、全国の、強豪。


 山下選手の、サーブ。


 彼女は、最後まで、諦めず、その最大の武器である、YGサーブを、放ってきた。


 強烈な、逆横回転。


 それが、私のフォアサイド深くへと、突き刺さる。


 だが。


(…あなたの、その、サーブも。私には、もう通用しない)


 私は、そのサーブの回転とコースを、もう見切ったとばかりに、予測していた。


 そして、ラケットを、ひらりと翻し、アンチラバーの面を、フォアに持ち替えた。


 ボールが、バウンドした、その瞬間。


 私は、そのボールの真芯を捉え、そして、全ての回転を殺し、そして弾き返す。


 アンチラバーでの、スマッシュ!


 ボールは、ナックルの弾丸となって、山下選手の反応も虚しく、コートに突き刺さった。


 静寂 11 - 7 山下


 第二セット終了


 セットカウント 2-0。私の、リード。


 私は、ネットの向こう側で、信じられないという表情をし、立ち尽くす山下選手に、背を向けた。


 そしてふと観客席を見ると、そこには、顧問の先生と、そして、試合を終えた、部長たちのすがたがあった。


 部長が私に向かって、力強くガッツポーズを、している。


 その隣で、あかねさんも、満面の笑みで、手を振ってくれている。


(…なるほど。どうやら向こうは、勝ったみたいだ)


 ベンチに戻ると、未来さんが静かに、タオルとドリンクを、差し出してくれた。


 その彼女の、深淵のような瞳には、私のその、完璧な試合運びに対する、賞賛の色が、浮かんでいた。


「お見事です、しおりさん。相手の得意な、サーブを、完全に封じ込めてみせるとは」


 そして、相手ベンチの方へと、視線を向けた。


「山下選手のコーチも、ようやくあなたの、ラケットの反転という種を、見破ったように見えました。 ですが、それを知っても、今から対策を立てるのは無理でしょうね、ラケットの反転なんて戦法、普通ありませんから、前もって考えておかないと、対策のしようがありません。」


 彼女のその、冷静な分析。


「そして相手は、このインターバルで、タイムアウトも挟んでこなかった。 おそらく、小手先の戦術では、あなたに勝てないと、判断したのでしょう。次の第三セットは、間違いなく、体力勝負に持ち込む狙いでしょうね」


 未来さんのその言葉に、私は、静かに頷いた。


 そして、ラケットを握り直し、そして言ったのだ。


 その声は、自分でも驚くほど冷たく、そして、絶対的な自信に、満ちていた。


「…ええ。ですが、それももう、意味はありません」


「え…?」


 未来さんが、意外そうに、私を見る。


 私はコートの向こう側で、必死に闘志を、奮い立たせようとしている、山下選手を見つめた。


 その瞳には、もはや、何の興味もない。


 ただ「もう、飽きた」とでも、言わんばかりに、冷徹な、光だけが、宿っていた。


「彼女の戦い方はもう全て、見切りました。パワープレーも、変化も、YGサーブも。私の思考は、彼女の全ての行動パターンを、既に予測し、そして、その最適解を、導き出しています」


「次のセットで終わらせます。これ以上、このゲームを続けるのは、時間の無駄ですので」


 私の、そのあまりにも、無慈悲な宣告。


 未来さんは、何も言わずに、ただ静かに、頷いた。


 インターバル終了を、告げるブザーが、鳴り響く。


 私は、立ち上がり、コートへと、向かう。


 ショータイムは、もう終わりだ。

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