蹂躙する部長
全国大会、一回戦。
俺の目の前に立つ相手は、いかにも曲者といった、雰囲気の男だった。
ラケットをくるくると回し、手遊びをする、そして、常に不敵な笑みを、浮かべていた。
案の定、試合が始まると、そいつの卓球は、変化球を主に戦う、タイプだった。
横回転、上回転、ナックル。
ありとあらゆる球種を織り交ぜた、サーブ。
そしてラリーになれば、突然ネット際に落とすストップや、意表を突く、ロビング。
そのトリッキーなプレーは、確かに一級品だ。
(…なるほどな。こいつは、相手のリズムを崩し、そして、精神的に揺さぶるのが得意な、タイプか)
俺は冷静に、相手を分析していた。
以前の俺なら、こういう相手は、大の苦手だった。
自分のパワープレーに持ち込む前に、ペースを乱され、自滅する。それが、俺の負けパターンだったからだ。
(…だが)
相手が放った、強烈な横回転サーブ。
俺は、その回転の軸と、方向を瞬時に見極め、そして、ラケットの角度を完璧に、合わせて力強いドライブで、打ち返した。
相手の顔に、驚きの色が浮かぶ。
(…悪いな。お前の、その変化球)
(俺にとっては、あまりにも、温すぎるんだよ)
そうだ。
俺はこの、一年間、毎日毎日、本物の「魔女」と、打ち合ってきたのだ。
しおりのあの、常識外れの、卓球。
回転があるのかないのかすら分からない、ナックルサーブ。
ボールの威力を、完全に殺す、ストップ。
その、あまりにも多種多様で、まるで己の魂を削って作ったかの様な変化
そして、ラケットを持ち替え、一瞬で球質を変えてくる、あの、幻惑のラリー。
しおりの変化球に比べれば、お前のそれは、ただの、子供の、遊びだ。
しおりとの練習がなければ、ヤバかったな、と、俺は内心思いながら、相手のその、トリッキーなボールを、危なげなく、捌いていく。
俺はもう、ただのパワーだけの、猪武者じゃない。
しおりとの練習で、俺の動体視力の使い方と、そして変化への対応能力は、嫌というほど鍛え上げられたのだ。
試合は、一方的だった。
相手は、自分の得意な変化球が、全く通用しないという、事実に焦り、そして、ミスを重ねていく。
俺は、その甘くなった、ボールを見逃さず、俺の本来の武器である、パワープレーで、叩き潰す。
試合は一方的に終わった
俺は呆然と立ち尽くす相手に一礼し、そしてベンチへと、戻った。
さて、あいつの方はどうなっているか
「さっすが部長!」
駆け寄ってくるあかねに任せとけと、話しながら、俺はニヤリと笑い、そして、彼女に向かって、親指を立ててみせた。
「よしっ、先生と合流して、しおりの試合を見に行こうぜ!」
俺たちは、先生が待つ観客席へと、二人で歩き始めた