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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
457/674

VSパワー(6)

 第二セット。スコアは、7-5。


 私の教え子である、静寂しおりが、リードしている。


 コートの中では、人間離れした、としか言いようのないラリーが、繰り広げられていた。


 相手は全国大会常連の中曽根中学、三年生の山下選手。全国レベルのパワーを、持つ、本物の強者らしい。


 その彼女の砲弾のようなドライブを、静寂は、ひらりひらりと、蝶のように舞いながら、いなしていく。


「…本当に、すごいな」


 私は思わず、そう呟いていた。


「先生、今の見ましたか!?今のしおりのバックハンド!あれ、ラケットを持ち替えずに、アンチで相手の、ドライブの回転を、なぞるように返球することで、そのま回転を、そのまま返したんですよ!しかも、返球する前に、一瞬アンチラバーを見せびらかす様にみせて!だから山下選手、回転を見誤り、打ち返せなかったんです!」


 俺の、隣で、日向さんが、目をキラキラと輝かせながら、興奮するように、私に、実況と解説をしてくれている。


 彼女のその、あまりの熱量と、専門的な解説に、俺は苦笑いするしかなかった。


 卓球の専門家ではない俺には、正直、何が起きているのか、半分も理解できていない。


 遠目からでは、静寂が、ラケットを回転させて、全てアンチラバーで打っているとは分からない。 ただ、山下選手の強烈なドライブが、彼女のラケットに当たった瞬間、魔法のように、その勢いを失い、そして、予測不能な軌道で返っていく。本当に、手品のようだった。


 …それにしても、幽基さん。本当に、ありがとうな


 私は、日向さんの解説を聞きながら、ベンチに腰かけ、静かに、しかし、鋭い眼差しで戦況を見つめる、幽基さんを見ながら思う。


 君がベンチに入ってくれて、本当に助かった。私じゃ、ベンチに入っても、こうやって見守ることしか、できないから



 コートの中の静寂は、まるで、水を得た魚のように、躍動している。


 そのプレーは、もはや、私が知っている、卓球ではなかった。


 それは芸術であり、そして、魔法だった。


「…先生。見てください」


 日向さんが、息をのむ。


 コートの中で、静寂が動いた。


 長いラリーの果て、彼女は、一瞬の隙を突き、そして、渾身のカウンターを、叩き込んだのだ。


 体育館が、割れんばかりの、歓声に、包まれる。


 私はただ、その光景を、呆然と見つめていた。


 私の知らないところで、私の教え子は、こんなにも強く、そして美しくなっていた。


 あの、感情の欠片もなかった人形のような彼女は、どこにもいない、心身ともに成長し、今では、冷静さと卓球を楽しむ感情が、同居している。

 その事実に、私の胸は喜びと、そしてどうしようもないほどの誇りで、いっぱいになった。


「…頑張れ、静寂」


 私は、誰に聞こえるでもなく、そう、呟いていた。


 この、戦いの結末を、最後まで見届ける。


 それが、今の私にできる、唯一の、そして、最大の応援なのだから。

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