VSパワー(5)
第二セット。セットカウント 静寂 1 - 0 山下。
山下選手のサーブから始まる。
私は、台の前に立ち、そして、ラケットを、体の中心で、地面と垂直に構えた。
フォア面の、赤い裏ソフトと、バック面の、黒いアンチラバー。
その、どちらのラバーも、相手には、見えないように、そして、どちらにでも、瞬時に対応できるように。
私の、基本の、最大限に工夫され、最適化された「構え」
ネットの向こう側で、山下選手が、息をのむのが分かった。
彼女の思考が、私のその、闘志を燃やした構えの前に、迷っている。
彼女は迷った末に、もっとも自信をもった、打ち合いを望む様な、下回転のロングサーブを放ってきた。
パワーでねじ伏せ、ラリーの主導権を握るという、彼女の意思。
だが私は、もうカットで付き合う気はなかった。
私は、そのサーブに対し、フォア側に持ち替えたアンチラバーで、痛烈にボールを叩きつける!
それは、ドライブのモーションから放たれる、ナックル性の、ナックルドライブ。
山下選手は、そのナックル性の攻撃に、ドライブを、かけようとする。
普通の選手なら、まず反応すらできない、一球。
だが、彼女は違った。
彼女は驚異的な体幹と、そして、天性のボールセンスで、その死んだボールを、強引に擦り上げ、私のコートへと、返してきたのだ。
ボールは、上手く持ち上げられず、ネットの白線に、引っかかっりギリギリネットを越えなかった。
私の得点となる。
静寂 1 - 0 山下
私は、その得点以上に、彼女のその、ありえない対応力に、戦慄していた。
(…今のボールを持ち上げる…?これが、全国トップレベルの技量…)
私は、山下選手の技量に驚く。
そこから試合は、白熱した展開となった。
山下選手は、その圧倒的なパワーで、苛烈なドライブを、次々と私に叩き込んでくる。
それに対し私は、ラケットをひらりひらりと、翻し、その全てのボールを、ナックルでいなしていく。
彼女の「矛」と、私の「盾」
その二つが、激しく火花を散らす。
体育館の視線が、私たちのその、異次元のラリーに注がれている。
回転と、無回転。
パワーと、テクニック。
王道と、異端。
その全てが混じり合い、そして高め合っていく。
この対話が、たまらなく楽しい。
私の、本当のショータイムは、まだ、始まったばかりだ。