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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
455/674

VSパワー(4)

 第一セット終了。


 11-8。


 スコアだけを見れば、接戦。しかし、試合の主導権は、私が握っていた。


 ベンチへと、戻る。


 未来さんが差し出してくれたタオルで、汗を拭い、そして、ドリンクで喉を潤す。


 息を整える、その短い時間の中で、私たちの思考は、既に、次の第二セットへと、向いていた。


「しおりさん。お見事でした」


 未来さんが静かに、しかし、その瞳には、強い興奮の色を浮かべて、口火を切った。


「あなたのその戦術の、切り替え…特に最後の、三球。完璧な、ゲームメイクでした」


「…ありがとう。だけど、」


 私は、首を、横に、振る。


「…彼女は、強い。このまま、同じ、戦術が、通用するとは、とても思えない」


 私のその言葉に、未来さんは深く頷いた。そして彼女は、ベンチから見て、感じた分析結果を、私に告げた。


「ええ。ですがしおりさん。一つ、興味深い仮説があります」


「先ほどの第一セット。あなたは、何度もラケットを反転させていました。ですが、相手の山下選手、そして、相手ベンチのコーチも、そのあなたの自然なラケットの回転に、ほとんど気づいていない可能性が、あります」


「…どういう、ことです?」


「彼女たちの意識は、あなたのあの、大袈裟なテイクバックから放たれるサーブに、完全に集中しています。あれが、あなたの変化の源泉だと、思い込んでいる。だから、それ以外のラリー中の、僅かなラケットの、回転には、気づいていない可能性が、高いのです、そもそも、ラリー中にラケットを反転させるなんて、正気の沙汰ではありませんし、ここ東京までは、あなたの噂は届いてないのでしょう」


 未来さんのその、鋭い指摘。


 私の思考が、その新しいデータを、処理していく。


「…なるほど。彼女たちは一度見破ったと思い込んだ、そのものに再び注目し、それを見破ることは難しいと、人間の認知バイアス。…うん、その可能性は高そう」


「はい。ですので、次のセット。あえて、あなたのそのラケット反転を多用し、そして、相手の思考の、さらにその裏をかく、という戦術はいかがでしょうか」


 未来さんの、その提案。


 それは、私の思考と、完全に一致していた。


 インターバル終了を告げる、ブザーが鳴り響く。


 私は立ち上がり、未来さんと視線を交わし、力強く頷いた。


 その瞳には、冷徹な分析者の光と、そして、この極限の状況を楽しむ、子供のような無邪気な光が、同時に、宿っていた。


 私の、全国大会その本当の「魔術」のショータイムは、ここから始まるのだ。



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