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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
454/674

VSパワー(3)

 サーブ権は、私。


 スコアは、8-8。


 体育館の、全ての音が消え去り、私の世界には、ただ、目の前に立つ山下選手と、そしてこの、白いボールだけが、存在していた。


(…楽しい)


 私の思考は、この極限の状況下で、しかし、明確に、その新しい感情を、観測していた。


 この強敵との、魂の削り合い。


 その、一球一球が、私の心を、かつてないほど高揚させる。


(だが、感傷はここまでだ)


 私の瞳に、再び、氷のように、冷たい光が宿る。


 感情を楽しむ私と、勝利を計算する私。


 私は、ラケットを高く、振りかぶった。


 大きな、テイクバックのモーション。


 そこから私が放ったのは、私の持てる、全ての「技術」と「思考」そして、「感情」を乗せた、一球。


 天高くに、白球を上げ、インパクトへのモーションへ移行する途中、私はラケットを自然に反転させ、そして、ボールの軌道と回転を、完全に殺した。


 ナックル性の、低い軌道を描くサーブ。


 私の技術の結集とミスディレクションが見せる、究極の私の決め球。


 山下選手は、そのあまりにも、複雑な、情報量の前に、完全に、思考を停止した。


 彼女のレシーブは、甘く浮き上がる。


 私はその、3球目を見逃さない。


 冷静に、そして無慈悲に、コートのオープンスペースへと叩き込んだ。


 静寂 9 - 8 山下


 私の、二本目のサーブ。


 私は、もう迷わない。


 同じモーションから、今度は、強烈な下回転をかけた、ロングサーブを、彼女のバックサイド深くへと、突き刺す。


 山下選手は、それにドライブで、応戦してくる。


 彼女の得意なパワーでドライブを放ってくる、私は彼女のようにパワーはない、その足りない力を補う様に、鋭く攻めた


 長い、長い、ラリーの、果て。


 彼女の、ドライブが、ネットに、かかった。


 静寂 10 - 8 山下


 セットポイントが、私の手に落ちる。



 山下選手のサーブ、追い詰められた彼女が放ったのは、渾身の、ロングサーブだった。


 彼女は、パワーを活かせる、得意な土俵で勝負を掛ける


(…受けて立つ、私の技術と、どっちが上か、勝負だ)


 そのボールに対し、私は台から下がり、カットで応戦する。


 彼女のドライブを、私がカットで返す。


 その応酬の中で、私は、確かに感じていた。


 彼女の、ボールに込められた「悔しさ」と、そして、私への「敬意」を。


 そして、ラリーが10本を超えた、その時。


 彼女のドライブが、ほんのわずかに、甘くなった。


 私は、その最後のボールに対し、ラケットを赤い裏ソフトの面で、合わせる。


 そして、放ったのは強打ではない。


 ただ優しく、そして静かに、相手のコートへと、ボールに、横回転を添えて、ストップを返す。


 ボールは、ネットの白線の上をするりと越え、そして、彼女のコートの、その手前に、ぽとり、と落ちた。


 彼女はその、横に逸れていくボールに、反応することができなかった。


 静寂 11 - 8 山下


 第一セット終了。



 ベンチへと、戻る。


 未来さんの、温かい笑顔と、科学者の様な目があった。


 そうだ。


 私の、戦いは、まだ、始まったばかりだ。

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