VSパワー(2)
静寂 3 - 1 山下
この心理戦の主導権は、今、完全に、私の手にあった。
サーブ権は、私。
私はネットの向こう側で、闘志を剥き出しにし、睨み付けるように、私の出方を窺う山下選手を、見つめる。
そして、私は選択した。
最高の皮肉と、そして、敬意を込めた一球を。
私は、手首を極端に内側に巻き込み、そして体を大きく、反転させるかのような、独特のフォームに入る。
山下選手が、息をのむのが分かった。
それは、先ほど、彼女が私に放った、YGサーブの、モーションそのものだったからだ。
(…あなたのサーブ、私にだって使える)
私は、お返しとばかりに、YGサーブを放ち、反撃する。
だが、私が、左手から繰り出すそのサーブは、右利きの、彼女のそれとは、逆回転がかかっている。
山下選手は、その回転に対し、なんとかドライブで返球してくる。
私は、それを、真っ向からドライブで、彼女のバックに返す。
彼女も、バックハンドのドライブで、打ち返してくる。
私は、今度はがら空きになったフォア側へと、ドライブを放つ。
揺さぶられる、山下選手
その、私の、厳しいコースを取るラリーに、山下選手は追い付けず、ラケットに、ボールを当てるのが、精一杯。
ボールは力なくネットに、当たり、コートに、落ちた。
静寂 4 - 1 山下
(…どうですか、山下さん。あなたの土俵でも、私は、あなたと、対等に戦える)
だが、彼女は、やはり、強豪だった。
ここから、一進一退の攻防が、始まる。
私が仕掛け、山下が、受ける。
私が、サーブで揺さぶれば、彼女は、驚異的な集中力で、それに食らいついてくる。
私が、ラリーの中で、変化を加えれば、彼女は、それごと、パワーで、カウンターを狙ってくる。
一進一退。
お互いに、一歩も、譲らない。
スコアだけが静かに、そして、確実に積み重なっていく。
この試合の決着は、まだ誰にも、分からない。
ただそこには、二人の天才が、互いの全てを懸けて戦っている、という事実だけが、あった。