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異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
452/674

VSパワー

 もう私に、迷いはない。


 第一セット。


 私のサーブから、始まる。


 私は、挨拶代わりに、大袈裟なテイクバックから、強烈な、下回転のショートサーブを放った。


 私のこの、特異なモーション。


 相手は、必ず警戒するはずだ。


 山下選手は、そのサーブに対し、一瞬だけ、思考を巡らせたようだった。


 そして、彼女が選択したのは、バックハンドで強引にボールを持ち上げ、ドライブで返すという、パワーでの打開策。


(…なるほど。小手先の変化には付き合わない。パワーでねじ伏せる、という、意志表示。)


 …だけど、パワーで押す戦いは、部長との練習で対策は完璧だ


 私は、待ってましたとばかりに、ラケットをアンチラバーに持ち替え、そして、フォアハンドで、全力で、相手の逆サイドに、叩きつけた!


 ボールは、彼女のドライブの回転を、完全に無に還され、そしてナックルの、弾丸となって、コートに突き刺さる。


 山下選手は、そのボールに、反応することすらできなかった。


 静寂 1 - 0 山下


 私の、二本目のサーブ。


 私は、同じように大袈裟なテイクバックのモーションから、今度は、素早くアンチラバーに持ち替え、超低空ナックルロングサーブを、放つ!


 それは、先ほどのショートサーブとは、全く逆の、球種と、コース。


 私の思考と、相手の思考が、激しく火花を散らす。


 下回転と読んでいた山下選手は、そのボールの、軌道に、完全に虚を突かれた。


 彼女は、ラケットを合わせて、ドライブでカウンターを放とうとするが、回転のないボールが、持ち上がらず、無情にも、ネットにかかる。


 静寂 2 - 0 山下


(あなたのパワーは。私の揺さぶりの前に、意味をなさない)


 私は、静かに、そして冷徹に、次の一手を思考する。


 サーブ権は相手、山下選手に移行する。


 どんなサーブが来るか、何が来る、あなたはどう戦う?


 彼女は、深く息を吸い込み、そして、サーブのモーションに入った。


 手首を、極端に、内側に、巻き込み、そして、体を、大きく、反転させるかのような、独特の、フォーム。


(…!あれは…)


 私の、思考ルが、瞬時にその構えを警戒する。


 YGサーブ。


 男子のトッププロも多用する、強烈な、逆横回転サーブ。


 放たれたボールは、その独特な、モーションから、凄まじい回転とパワーで、私のコートへと突き刺さる。


 私は、そのサーブに対し、ラケットをアンチラバーの面に合わせ、その回転を殺しながら、返球する。


 しかし、山下選手は、その、私の返球を待っていた。


 彼女は一歩深く踏み込み、そして、そのナックル性のボールを、パワーで押し込んできた。


 強烈な、ドライブ。


 私は、そのあまりの威力に押され、ストップで応戦するが、体勢を崩していない中学のトップクラスの選手相手に、ストップは有効ではなかった、彼女は、その甘くなったボールを、無慈悲に、台に叩きつけてきた。


 静寂 2 - 1 山下


(…なるほど。これが全国レベル。私の、変化(ナックル)すらも、パワーでねじ伏せてくる、というわけですか)


 山下選手のサーブ、二球目。


 彼女は、自信を深めたのだろう。YGサーブを、もう一度放つ。


 全く同じコース、同じ回転。


 だが私は、もう同じ過ちは、繰り返さない。


 私は、あえて相手に、アンチラバーの面を、見せつけるようにして、構える。


 そして、ボールがバウンドした、その瞬間。


 私は、ボールの側面を、アンチラバーで、なぞるように返球した。


 そのボールは、YGサーブの回転をそのまま利用し、そして、相手コートへと返っていく。


 アンチラバーの、可能性「相手の回転を、利用する」、それを最大限に活用した、一球、この技は、中学生で使えるのは私ぐらいだろう、アンチラバーと向き合ってきた私が使える、超絶技巧


 山下選手は、アンチラバーで返しているのを、見ているので、その返球が、ナックルであると、見て、ボールのバウンドを見る。


 だがボールは、YGサーブの回転の影響で、バウンドと、同時に、大きく横にずれていった。


「なっ…!」


 山下選手は、その変化に、体勢を崩しながらも、なんとか、ドライブで、返球してくる。


 だが、その返球は、もはや力のない、ただの、チャンスボール。


 私はそのボールの落下点へと、入り、バックハンドスマッシュの、モーションに入る。


 それを見て山下選手は、慌てて台から離れる。


(…台から離れた…!)


 私は、バックハンドスマッシュのモーションから、インパクトの瞬間だけ、全ての勢いを殺し、ネット際に、ぽとりと落とす、ストップを放った。


 それを見て、山下選手は、再び、台に、近づくが、ボールは、無情にも台の上で、二回バウンドしていた。


 静寂 3 - 1 山下


 この心理戦の主導権は、今、完全に、私の手にあった。

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