全国大会
会場の熱気と、喧騒。
その中で、私たちは一度、立ち止まった。
ここからは、それぞれの戦いが始まる。
部長とあかねさんは、男子の試合会場へ。
私と未来さんは、女子の試合会場へ。
そして、顧問の先生と、あおは、観客席へと向かう。
私たちは三手に、分かれるのだ。
その、別れ際だった。
「ねえ、みんな!」
あかねさんが、満面の笑みで言った。
「最後にあれやろ!円陣!」
その言葉に、私たちは、顔を見合わせる。
そして自然と、一つの輪ができた。
顧問の先生も含めた、六人で、肩を組む。
「しおり」
部長が、私の目を真っ直ぐに見て、言った。
「ここまで来れたのは、お前のおかげだ。お前がいなければ、俺は腑抜けたままで、ここまでこれなかった、だから、最後の締めは、お前に任せる。掛け声、頼むぜ!」
その、あまりにも真っ直ぐな、言葉。
他のみんなも、期待を胸に、私を見つめている。
私は一度、目を閉じた。
円陣の掛け声、私には向かないと思うけど、昔の私だったら、率先してやっていたのかな…?
私のことも、私は知らない、でも、私の中に過去はあるのだから考えた
私は、今思う、最高の言葉を、紡ぎ出す。
「……はい」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
そして、仲間たちの顔を、一人一人見つめて、言った。
その声は、自分でも驚くほど力強く、そして温かかった。
「ここまで、来ました。」
「あとは、勝つだけ。」
「行くよ、みんな!」
「――第五中学校、勝つぞ!!!」
私の、その魂の叫び。
それに応えるように、仲間たちの声が、一つになる。
「「「「「おーーーーーっ!!!」」」」」
その声は、この巨大な体育館の喧騒を、かき消すほど力強く、そして、温かく響き渡った。
そうだ。
私たちは、もう一人じゃない。
この仲間たちと一緒なら、きっと、どんな壁も、乗り越えていける。
私は、その確かな温もりを胸に、決戦の舞台へと、足を踏み出した。
私と未来さんは、二人で、女子シングルス一回戦のコートへと、向かう。
私たちは、指定されたベンチへと向かい、そして、静かに腰を下ろした。
未来さんは、何も言わない。
だが、その静かな佇まいが、逆に、私の心を落ち着かせてくれる。
彼女は、もう、私の最高のパートナーであり、そして、最高の理解者だ。
やがて、コートの反対側のベンチに、対戦相手が姿を現した。
中曽根中学。去年の全国大会、団体戦、ベスト4の超強豪校。
そして、そのゼッケンに書かれた名前は「山下」
彼女は、中学三年生。
私よりも、ずっと背が高く、そして、鍛え抜かれた、その体格は、一目で、彼女がパワープレイヤーであることを、示していた。
彼女の、その佇まいには、一切の隙がない。
その瞳は、絶対的な自信と、そして、勝利への渇望で、燃えている。
これまでの、どの相手とも、違う。
まさしく、全国大会に、相応しい相手。
(…面白い)
私の心の中で、二人の私が、同時にそう呟いた。
氷のように、冷徹な私が。
そして、卓球を楽しむことを思い出した、私が。
主審の、コールが、響き渡る。
私と山上選手は、コートの中央へと歩み寄り、そして、深く一礼をした。
「「よろしくお願いします」」
私の全国大会が今始まる。
その胸の中には、仲間たちからもらった、温かい光と、そして、この強敵と戦えることへの、純粋な喜びが、満ちていた。
もう私に、迷いはない。