始まり
翌朝。
私は、カーテンの隙間から差し込む、眩しい光で、目を覚ました。
窓の外には、朝の光を浴びて、キラキラと輝く、巨大なビル群が、広がっている。
隣では、まだあおが、すーすーと、静かな寝息を、立てていた。
その、無防備な寝顔を、見ていると、私の口元が、自然と緩む。
私は、静かにベッドを抜け出し、そしてラケットケースから、愛用のラケットを取り出した。
ひんやりとした、グリップの感触。
それが、私の思考を、クリアにしていく。
私は、その場でゆっくりと、軽く、素振りを始めた。
体の一つ一つの、筋肉を確かめるように。
一つ一つ、モーションを確認していく、テイクバックのモーション、ストップのモーション、ドライブのモーション
そしてこれから始まる戦いに向けて、精神を、研ぎ澄ませていく。
しばらくそうしていた後、私は、まだ眠っている、あおの元へと向かった。
「…あお。朝だよ」
私が、その肩を優しく揺さぶると、彼女は「んん…」と、小さな声を漏らし、そして、ゆっくりと目を開けた。
「…しおり…?おはよ…」
「おはよう。そろそろ、起きないと、間に合にあわないよ」
「…うん」
彼女は、まだ眠そうだ。
私たちは準備を済ませ、そして、決戦の舞台となる、会場へと向かった。
そこは、東京体育館。
そのあまりにも大きな建物を前に、私たちは、ただ息をのんだ。
「……で、でっか…」
あおが、呆然と呟く。
「はい。ブロック大会の会場とは、比較になりませんね」
私たちは、中へと足を踏み入れる。
そこには既に、全国から、集まった猛者たちの熱気が、渦巻いていた。
そして、私たちが戦う、メインアリーナ。
その、大きい会場に、私たちは圧倒される。
いくつもの、卓球台。
そして、それを取り囲む、巨大な観客席。
ここでプレイするのか、と思うと、私の心臓が、少しだけ速く打つのを、感じた。
「…すごい。観客も、多いね」
あおの言う通り、観客席は、既に、多くの人で、埋まり始めている。
その視線が全て、私たちに注がれているかのようだ。
私は、一度、大きく息を吐き、そして隣に立つ、あおを、みんなを見た。
みんなは私を見て、力強く頷いた。
そうだ。
私はもう、一人じゃない。
「――行こう」
私はそう呟き、そして、決戦の舞台となる、その会場へ入った。
私の、最後の戦いが今、始まろうとしていた。