表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
全国大会
448/674

東京(2)

 私たちは、希望と、そして、ほんの少しの緊張を胸に、東京という、巨大な迷宮の中へと足を踏み出した。


「よしみんな!私についてこい!」


 そんな私たちを引率する顧問の先生が、自信満々にそう言って、大きなキャリーケースを、引きながら歩き始めた。


 その背中は、いつになく頼もしい。


 私たちは、先生の後に、続く。


 駅の構内は、まるで迷路のようだ。


 右へ左へ、と、先生は、淀みない足取りで進んでいく。


 だが。


「…先生」


 それまで、黙って後をついてきていた、未来さんが、静かに、口を開いた。


「ん?どうした、幽基さん」


「この景色。先ほども、一度観測した記憶があります。ここ、さっき来ました」


 未来さんのその、あまりにも冷静な指摘。


 その言葉に、先生の足が、ぴたりと止まった。


 そして、その額には、じわりと冷や汗が、浮かんでいる。


「…そ、そうか?気のせいじゃ、ないか?」


「いえ。あの赤い看板の、店の前を通過するのは、これで三度目です」


 先生は、明らかに、道に迷っていた。


 その事実に、部長とあかねさんが、笑いを、堪えている。


 あおは、私の袖を、ぎゅっと握りしめ、不安そうな顔で、私を見上げている。


「…まあ仕方ない。東京の、駅は複雑怪奇だからな!」


 先生はそう言って、開き直ったように笑った。


「よしこうなったら、文明の利器に頼るしかない!」


 彼はそう言って、スマートフォンを取り出し、地図アプリを、起動させる。


 私たちは、その小さな画面を、全員で覗き込むようにして、ようやく正しい出口へと、たどり着くことができた。


 駅の外へ出ても、その混乱は、続いた。


 どこを、見ても、人、人、人。


 そして、空を突き刺すような、高いビル。


 その圧倒的な情報量に、私の思考も、少しだけ、オーバーヒート気味だった。


 私たちは、そんな東京の洗礼を、受けながらも、なんとかかんとか、予約していたホテルへと、たどり着いた。


 チェックインを済ませ、それぞれの部屋の鍵を、受け取る。


 部屋は三部屋。部屋分けは、男子が、部長と顧問の先生。


 そして、女子が、未来さんとあかねさん。最後に、あおと私、という組み合わせになった。


 あおが、私と同じ部屋を取れたことを、心底嬉しそうにしているのが、見て取れた。


 部屋に向かう前に、顧問の先生が、私たちを集めて、言った。


 その表情は、いつになく真剣だ。


「いいかみんな。ここは、俺たちの地元とは違う。何か必要なものを買う時は、必ず私が、同行するから、絶対に、勝手に、外には、出ないよう。いいな」


 その言葉に、私たちは皆、こくりと頷いた。


 それぞれの部屋に荷物を置き、そして私たちは、まずお風呂へと、向かうことにした。


 長旅の疲れを、癒すためだ。


 ホテルの、大浴場。


 その扉を、開けた瞬間。


 私たちは、息をのんだ。


「う、うわあああ…!ひ、広い…!」


 あかねさんが、驚きの、声を、上げる。


 そこには、私たちが普段目にしている、銭湯とは、比べ物にならないほどの、大きなお風呂が、広がっていた。


 私たちがたまにいく銭湯も、有名な温泉らしいが、それとは全く違う


 いくつもの種類の湯船。大きな窓から、見える夜景。


 まるで、高級な、温泉旅館にでも、来たかのようだ。


「…すごいですね。これが、東京…。私たちが住んでる所とは、スケールの違う物が、作られている…」


 未来さんも、感心したように、呟いている。


 私もまた、その圧倒的な物量とスケール感に、驚いていた。


 私の思考が、この空間のデータを処理しきれずに、短いフリーズを、起こす。


「見て、しおり!あっちに、露天風呂もあるよ!行こ行こ!」


 あおが、子供のようにはしゃぎながら、私の手を引く。


 その、温かい感触。


 そして、隣で楽しそうに笑う、仲間たちの、声。


(…なるほど。これもまた、一つの、データだ)


 私は、心の中で、そう呟いた。


 東京という、巨大な、迷宮。


 それは、私にとって、ただの脅威では、ない。


 私の知らない、たくさんの「温かいノイズ」と「新しい発見」で、満ちている、未知のフィールド。


 私の新しい冒険は、どうやら、この大きなお風呂から始まるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ