東京
そして1月6日。
ついに、その日はやってきた。
全国大会の、始まりだ。
舞台は東京。
私たちが、新幹線を降り立つと、そこには、これまで、経験したことのない、人の波と、そして、巨大なビル群が、広がっていた。
「うおお…!すげえなおい…。これが、東京か…!」
もの珍しそうに、きょろきょろと、周りを見渡す、部長。
その姿に、あかねさんと未来さんが、くすくすと笑っている。
私もまた、その光景に、ほんの少しだけ、口元を、緩ませた。
そして、その私の、隣には。
「…やはり東京は、ノイズの密度が、違いますね…、なんてねっ!」
そう言って、私と全く同じ、第五中学の制服に、身を包んだ、葵が立っていた。
なぜ彼女が、ここにいるのか。
そして、なぜ、私の制服の予備を借りて、第五中学の生徒に、扮しているのか。
それは彼女の「しおりの一番、近くで応援したい」という想いと、それを許可した、顧問の先生の、懐の深さの結果だった。
そんな私たちを引率する、顧問の先生が、穏やかな笑みを浮かべて、言った。
「さてみんな。まずは、ホテルに向かうぞ」
「万全の体調で、明日の試合に挑むために、今日はホテルで、しっかり休んで、明日に備えなさい。」
そして先生は、続けた。
「大会は、明日だ。そしてホテルは話した通り二泊取ってある、最終日は、私も同行するという条件付きだが…、観光していいからな。せっかくの東京だ。卓球だけじゃ、もったいないだろ?」
その、先生の優しい言葉に、あかねさんとあおが「やったー!」と、歓声を上げる。
部長も「マジかよ、先生!太っ腹だな!」と、ニヤリと、笑っている。
未来さんも、どこか楽しそうだ。
私は、そんな仲間たちの姿を見て、胸の奥が、また、ぽかぽかと、温かくなっていくのを感じていた。
全国大会。
それは私の、これまでの、積み上げてきた勝利、その全て賭けて挑む戦いの場所。
そして同時に、この温かい仲間たちと共に過ごす、かけがえのない時間の、始まりでもあるのだ。
私は、隣に立つ、あおの手を、ぎゅっと、握りしめた。
彼女もまた、私の、手を、強く握り返してくれた。
さあ、行こう。
私たちの、最後の、戦いへ。
そして、その、先にある、新しい、未来へと。
私たちは、希望とそして、ほんの少しの緊張を胸に、東京という、巨大な迷宮の、中へと、足を踏み出した。