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異端の白球使い  作者: R.D
探し物
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最後の練習

 三が日、私は家での練習漬けだった。


 卓球マシンを相手に、ひたすらにボールを打ち返す。


 自分の中に生まれた、新しい、感情という「変数」。


 そして、仲間たちが与えてくれた「温もり」という、エネルギー。


 それらをどう、私の卓球に組み込み、そして昇華させていくか。


 その最適解を見つけ出すための、孤独な、しかし充実した時間だった。


 だが、三日も機械相手では、さすがに物足りなくなる。


 対人でなければ、得られないデータが、ある。


 四日から私は、部長と共に、市民体育館へと通い始めた。


 葵も、あかねさんも未来さんも、それぞれの家の事情があり、この練習に参加できるのは、二人だけだった。


 体育館に響き渡る、激しい打球音。


 私と部長の、ラリーの応酬。


 その中で、私はすぐに、彼の変化に気づいた。


(…速い。そして、重い)


 ブロック大会の時よりも、明らかに、彼のドライブの威力とスピードが、上がっている。


 部長の攻撃が、激しくなっているのだ。


 それはただの、パワー任せの一撃ではない。


 その、一球一球に、全国の頂を目指すという、彼の、強い強い、意志が、込められている。


 一方、彼もまた、私の変化に、気づいていた。


(…なんだ、こいつの卓球は…)


 部長は、私のその、あまりにも予測不能なプレーに、舌を巻いていた。


 以前の私の卓球は、ただ冷徹で、そして合理的だった。


 だが、今の私の卓球は、違う。


 その、冷徹さの中に、確かに存在する「遊び心」。


 相手の意表を突くことを、楽しんでいるかのような、面白くしようとする想い。


 それが、私の卓球を、さらに複雑で、そして予測不能さを、激しくしていたのだ。


 ラリーが、途切れた、瞬間。


 部長が、息を弾ませながら、私に、言った。


「…しおり。大会は、7日からだ。もう、あまり、時間がないが、大丈夫か?」


 彼のその声には、私を気遣う、響きがあった。


 私は、ラケットを握り直し、そして静かに、しかしはっきりと、答えた。


「問題、ありません。」


「私の新しい、戦術は、もう、完成しています。そして、あなたも、随分と腕を、上げたようですし」


 私のその、少しだけ上から目線の言葉に、部長が「なっ…!」と、言葉を詰まらせる。


 その反応を見て、私の口元が、ほんのわずかに緩んだ。


 そうだ。


 この男と、そして、仲間たちと、一緒なら。


 私たちは、きっとどこまでも高く、飛べるはずだ。


 全国の、頂へ。


 その確かな予感が、私の胸を、熱く、満たしていた。

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