年賀状
次に私が、目を覚ました時。
窓の外は、もうすっかり暗くなっていた。
時計の針は、夜の8時を指している。
どれくらい、眠っていたのだろうか。
私の思考はクリアだ。そして同時に、強い空腹感を感じていた。
私はベッドから起き上がり、そして、ダイニングへと向かう。
テーブルの上には、一枚のメモが置かれていた。
部長のその、力強い文字だ。
『しおりへ。
起こすのも悪いと思ったから、先に帰る。
お前を寝かせるために借りた、家の鍵は、ポストに入れとくからな。
じゃあまた、練習でな。
部長より』
その不器用な、しかし温かい置き手紙に、私の口元が、ほんのわずかに、緩む。
私は、トーストを焼き、ジャムを塗り、一人静かに、夕食を済ませた。
(…鍵を、取りに行かなければ)
私は、コートを羽織り、玄関のドアを開ける。
ひやりとした、冷たい空気が、私の頬を撫でた。
空からは、白い雪が、静かに舞い落ちている。
寒い。
そう思いながらも、私は、ポストへと向かった。
ポストの中には、部長が返してくれた鍵と、そして、数枚の葉書が、入っていた。
年賀状だ。
一枚は、毎年律儀に送ってくれる、店長さんから。
そして、残りの五枚。
そこに書かれていた名前に、私は、息をのんだ。
部長。
あかねさん。
未来さん。
そして、あお。
初めてもらう、友達からの年賀状。
その、一枚一枚に書かれた、温かい、メッセージ。
私の胸の奥がまた、ぽかぽかと、温かくなっていく。
そして、その中で、ひときわ異彩を、放っている一枚があった。
それは、卓球専門誌、「卓球レポート」からの、年賀状。宛先は店長さんのお店の住所だが、私への年賀状、恐らく店長さんがポストに入れてくてたのだろう。
そこには、こう書かれていた。
「謹賀新年。静寂しおり様。本年も、ご活躍を期待しております」と。
そしてその葉書の、半分を占めているのは、一枚の写真。
それは、ブロック大会の、決勝戦。
私が、勝利した、あの瞬間の写真。
躍動する、体。
真剣な、眼差し。
そして、その下に書かれた、キャッチコピー。
『――予測不能の魔女、ここに完全覚醒。その視線の先に見るは、全国の頂か。』
それは、私が知らないうちに作られていた、私の、新しいポスターが印刷された、年賀状だった。
どうやら、店長さんのお店に飾られているポスターの黒幕は、専門誌、卓球レポートだったようだ。
私は、その葉書を、ただじっと、見つめていた。
魔女。
その言葉の響きは、もう以前ほど、私を、動揺させはしなかった。
今の私には、その魔女を支えてくれる、温かい、仲間たちが、いるのだから。
私は、その六枚の年賀状を、強く胸に、抱きしめた。
私の、新しい年は、本当に素晴らしいものに、なりそうだ。
その、確かな予感が、私の心を満たしていた。